テン 06.11.21





ふしぎなカキの実



 南但馬自然学校から朝来山へ続く散策道くまコースの途中に「木の実の森」と呼ばれる一画があります。地元のお年寄りに伺うと、以前、この場所は牧場だったらしく、牛が放牧されていたそうです。現在は直径20p程度のコナラを中心とした雑木林になり、子どもたちの林業体験フィールドとなっています。

 その「木の実の森」に足を踏み入れ辺りを見回すと、不思議なものを見つけました。コケむした大きな岩の上にカキの種とそのすぐ近くには、カキの実が1つ転がっていました。ここには、ピンポン玉より少し大きな実をつけた、マメガキの木が3本あるので、種や実が落ちていても何の不思議もありませんが、いたずらをしたように種が1カ所に二十数個も集まっています。これはいったいだれの仕業でしょう?
 
 記憶をたどると、以前にも今回と同じような体験をしたことを思い出しました。野外キッチンから但馬ふるさと館へ続く道の両脇には、モモの木が毎年のように実をつけますが、この実が数日で全てなくなったのです。木の下には、しゃぶりつくしたようにきれいになった種だけがたくさん落ちていました。このモモの実を食べたのは“テン”でした。以前、この場所から私の姿を見て、逃げ出すテンを何度か目撃しているので間違いありません。

 今回の「カキの種ミステリー」もおそらくテンであろうということで決着しましたが、新たな疑問が湧いてきました。それは種の近くに落ちていたカキの実です。この実の表面には、いくつか小さな穴が空いています。これは、テンが口で枝から実をもぎ取るときに付いた歯形だと考えていましたが、歯形にしては不規則です。それに、前歯、犬歯、奥歯では,、それぞれカキの実に付く跡も違って当然ですが、この実に付いた跡はどれも同じようなものです。カキの実を見つめて考え込んでしまい、結局、結論は出ませんでした。

 後日、動物に詳しい方から「テンはニワトリの卵を前足でかかえて、腹をすりながら後ずさりをして持っていく」という話を聞いてひらめきました。あのカキの実に付いていた穴は歯の跡ではなく、テンが両前足で実をもぎ取ったときに付いた爪跡だったのです。それではその様子をはく製のテンを使って再現してみましょう。どうですか、こんな風に「木の実の森」でテンがカキの実を取っていたかと思うと、なんだか楽しくなりませんか?

 動物たちの姿や生活を見ることはなかなかできませんが、食べ跡や、ふん、足跡などからその様子を知ることができます。この食べ跡や、ふん、足跡などの痕跡を“フィールドサイン”と言い、フィールドサインから動物の生活を知る方法を“アニマルトラッキング”と言います。みなさんも森に出かけてアニマルトラッキングに挑戦してみませんか。ちょっとした探偵気分が味わえますよ。
  
文責 増田 克也
  
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