サンショウクイ  06.09.05


山椒はヒリリと・・・



 ある日のこと、校内を散策していると「ヒリリ、ヒリリ」と奇妙な声が聞こえてきます。特徴ある声に、一瞬ハッとしましたが、「まさか、南但馬自然学校にいるはずがない・・・」と大して気にも留めませんでしたが、それでも声のする方向をぼんやり見てみると、遠く生活棟さくらの館前のケヤキに、何やらうごめくものがありました。それはゴマ粒くらいの大きさでしたが、その「まさか」と思った野鳥のようです。何度も目をパチクリさせて見直しましたが、他の野鳥にはないスマートなスタイルは、“サンショウクイ”に間違いありません。

 私が驚くには訳があります。サンショウクイは春に繁殖のため、南の国からやってくる渡り鳥ですが、近年その数が少なくなり、環境省のレッドデータブックで“絶滅危惧U類”、兵庫県のレッドデータブックでは“絶滅危惧種Bランク”にそれぞれ指定されている希少種です。南但馬自然学校での過去の記録は、朝来山展望台のヤマナラシにとまっているのを、一度だけ確認したことがありますが、その他は全くありません。さらに驚くことに、今回出会ったサンショウクイは、背中に白いラインが入った今年生まれの若鳥です。この時期に若鳥に出会えるということは、南但馬自然学校の朝来山でサンショウクイが繁殖した可能性があるといえます。

 「これは是非とも記録写真を撮らねば!」何度か試みるものの、サンショウクイには私の逸る気持ちがわかるのか、なかなか写真を撮らせてくれません。そんな時には、無理に接近せず行動をよく観察して、サンショウクイが好んでとまる木を見つけだし、あちらから近づいてくれるのを待つのが一番です。やっとのことで撮らせてくれたのがこの写真です。若鳥といえども、タキシードを着たようなスマートなプロポーションに見とれてしまいます。
 おやおや、よく見ると口に何かくわえています。これはおいしそうなものを見つけたようですね。呑み込もうとした次の瞬間、口ばしを滑らせてせっかくのごちそうを弾いてしまいました。タキシードを着ていてもやっぱり若鳥ですね。本人もよほど悔しかったのでしょう、すぐに飛び立っていきました

 ところで、“サンショウクイ”という名前の由来ですが、“山椒食い”と漢字で書けば察しが付くと思います。「山椒が好物でよく食べるから」と言いたいところですが少し違います。山椒を食べると口の中が“ピリピリ”しますが、昔の人はサンショウクイの「ヒリリ、ヒリリ」という鳴き声を聞いて、「あの鳥は山椒を食べたのだろう」と想像し“山椒食い”と名付けたそうです。実際のサンショウクイは、虫やクモを好み山椒は食べないようですね。

 9月に入り、サンショウクイの旅立ちが近づいています。今は自然観察館の林から声が聞こえることや、エントランス広場のケヤキのこずえでくつろぐ姿が見られたりしますが、いつ旅立っても不思議ではありません。
 海を越え天敵から逃れながらの越冬地への旅は、若いサンショウクイにとって大変な試練でしょうが、来年の春には生をうけたであろうこの朝来山で逞しく成長した姿を再び見せてほしいものです。
 
文責 増田 克也

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