オオタカ(若鳥)07.02.20





引き継がれる命



 自転車がどうにかすれ違える程度の、狭い川の土手を通りかかると、遠くの中州に全身ずぶ濡れになったみすぼらしいトビのような鳥がうずくまっています。警戒されないように、少しずつ近寄り双眼鏡でのぞいてみると、その猛々しい面構えに思わず息を呑みました。この鋭い眼光はただ者ではありません。この鳥はトビなどではなく、紛れもないオオタカの若鳥です。
 これまでオオタカといえば高く空を飛ぶ姿を見かけるのがほとんどで、今回のように川の中で見るのは初めてのことです。不思議に思いましたが、水面に広がる羽毛にすぐ謎は解けました。なんとオオタカは足元に仕留めたばかりの獲物を押さえつけているではありませんか。しかし残念ながらこの場所からはよく見えません。そろりと対岸へ回り込み観察することにしました。

 ここは南但馬自然学校からほど近い、朝来市山東町、与布土川の上流域です。川沿いの土手道を自然学校で本校を訪れた子どもたちがサイクリング等によく利用する馴染み深いこの場所で、オオタカの食事光景を目の当たりにしました。
 オオタカは、カラスくらいの大きさのタカで全国に分布していますが、環境省のレッドデータブックで準絶滅危惧種に指定されてる数少ない野鳥です。エサは主に小鳥ですが、時にはノウサギやリスといったほ乳類も捕らえます。今回、このオオタカの獲物は水中でよく見えませんが、水かきが付いたオレンジ色の大きな足や、身体の色や模様から判断してマガモのメスを捕らえたようです。マガモの体重は約1300グラム、オオタカの体重は雌雄で差がありますが、平均800グラムと言われていますので、オオタカは自分より大きな獲物を捕らえたことになります。さすがに“狩りの名手”と呼ばれるだけのことはあります。この状況からみて、オオタカは空から急降下してマガモの背後から襲いかかり、頭を水中に押さえ込み溺死させたのでしょう。

 程なくオオタカは獲物を食べ始めました。辺りには羽が散らかり、見る見るうちにマガモの白い胸は赤い肉色に変化していきます。カギ状に曲がった鋭いくちばしは、肉を引き裂くため進化したことを改めて認識させられました。
 獲物の存在を嗅ぎつけ集まり始めたカラスを嫌って、オオタカは獲物を水中から中州へ引き上げ始めましたが、大きなマガモはビクともしません。自分の全体重をかけて何度も何度も引き上げるうちに少しずつ岸に近づき、ここで再びくちばしをつけました。
 オオタカが獲物を食べ始めてから30分が経ちました。ぽっかり穴が空いたマガモの胸とは対照的にオオタカの胸は大きく膨らんでいます。鳥類の胸には“そ嚢(そのう)”と呼ばれる消化管があり、その膨らみを見ることで、おおよその食べた量を知ることができます。そ嚢の膨らみ具合からみても、オオタカはかなり満腹になっていることでしょう。

 今回、運良くオオタカの食事光景を観察できる機会に恵まれ、生と死のドラマを垣間見ました。みなさんの中には「残酷だ!」思われる方もあることでしょう。
 今の人間社会ではスーパーに行けば、肉も魚も白いトレイにのせられ販売されています。肉や魚、そして野菜も、私たちが直接手をくだすことなく手に入れることができ、その命は“食材”という呼ばれ方をしています。しかし、私たちの命は、毎回の食事から摂る、多くの命によって支えられていることは間違いありません。「せめて食事の前後に手を合わさなければ・・・」マガモからオオタカへ引き継がれる命を目の当たりにして、いろいろなことを考えさせられる一日でした。
 
文責 増田 克也

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