モズ  06.09.26


百の舌を持つ野鳥



 みなさんは“モズ”という野鳥を見たことがありますか? 色は何となくスズメに似ていますが、体の大きさはスズメより一回り大きな野鳥です。今の季節は、木の梢や電線など、目立つ場所によくとまっているので見つけやすいですよ。それでは、南但馬自然学校周辺に棲むモズの様子を見てみましょう。

 稲の刈り取りが済んだ田んぼの杭にモズがとまっています。このような見晴らしのよいところは、モズのお気に入りの場所です。このモズは先ほどから長い間、田んぼの隅々まで何度も見回していますが、いったい何をしているのでしょう? 実はエサを探しているのです。それでは、狩りの様子を見てください。モズが見晴らしのいい場所に陣取り辺りを見回しています。さあ、獲物を見つけたようです、一直線に飛び出し襲いかかりました。このモズは見事にトノサマガエルを捕らえました。尾羽をピンと上げて自慢のポーズです。
 モズはいろいろな小動物をエサにします。昆虫、小魚、カエル、トカゲ、ときには自分の体より大きな小鳥やネズミまでも捕らえます。この小さな体のどこにこんなパワーがあるのでしょうか? その秘密はこの写真をよく見るとわかりますよ。くちばしの形に注目してください。上のくちばしがカギ状になっていますね。猛禽類のワシやタカも同じくちばしの形をしています。モズはこの鋭いくちばしで自分よりも大きな獲物も捕らえてしまいます。

 秋になるとモズは大きく鋭い声で鳴き始めます。「キィキィキィキィー、ギュンギュンギュン、キィキィキィキィー」秋のさわやかな空気を引き裂くようなけたたましい声です。この鳴き声を「モズの高鳴き」と呼び、秋の風物詩になっていますが、高鳴きには他のモズに自分の縄張りを知らせる意味があります。多くの野鳥が春の繁殖期に縄張りを作るのに対して、モズは秋から縄張りを持つ変わり種です。これは寒くなる秋から冬にかけて、エサの確保が難しくなるために縄張りを作るといわれています。
 騒がしい高鳴きの合間には、希に美しいさえずりを聞かせてくれることがあります。モズのさえずりは高鳴きと打って変わり、ささやくような小さな声ですが、いろいろな野鳥の声や節を織り交ぜた素晴らしい歌声です。高鳴きは聞いたことがある人も多いと思いますが、さえずりは注意深く観察をしていないとなかなか聞くことはできません。
 昔の人々は、モズのさえずりを当然のこととして、美しい鳴き声に耳を傾けていました。その証拠は文字にあります。モズを漢字で書くと「百舌」または「百舌鳥」と書きます。“百の舌を持つ鳥”これは、モズがいろいろな野鳥のまねをするところから当てられた文字です。また、モズが鳴きまねをしていると判断するには、他の野鳥のさえずりも聞き分けられる能力が必要です。先人たちは、なんとすばらしいナチュラリストだったのでしょう。加えて「百舌鳥」という文字を当てたセンスにも脱帽です。

 モズは昔から人々に親しまれてきた野鳥です。モズに関わることわざもたくさんありますし、俳句の季語にもなっています。みなさんも、是非、モズを観察してください。運よくさえずりが聞ければ、遥か昔の“風流人”にタイムスリップできるかもしれませんよ。

文責 増田 克也

このページのご意見ご感想をメールでお寄せください
Email mtajimashizen@pref.hyogo.lg.jp