与布土川のイカル(冬の思い出)
南但馬自然学校の近く、与布土川ではイカルという野鳥が100羽ほどの群れを作り、この冬を過ごしました。イカルは当地で“マメマワシ”または“マメハシ”と呼ばれ昔から親しまれている小鳥です。それぞれの語源は「マメマワシ:豆をくちばしで上手に回して食べる」「マメハシ:固い豆でも割って食べることができる丈夫なくちばしを持つ」などといわれています。
昔の人々も注目したようにイカルの一番の特徴は、頭の半分ほどもあろうかと思われる黄色い大きなくちばしです。次に全身を見てみると、黒い頭巾(ずきん)をかぶったような頭と羽先以外は、日本情緒(にほんじょうちょ)あふれる灰色のグラデーションを基調とした美しい野鳥です。
田んぼや畑が雪で閉ざされると、イカルたちが与布土川にやってきます。彼らのお目当ては、イネ科の帰化植物ジュズダマの実で、我先にと茎にとまり血相を変えて実を探し始めます。それぞれ思い思いのポイントで餌を探っていきますが、中には雪に埋もれそうになりながら奮闘(ふんとう)している者もいます。
特に雪が少ない水面の近くでは、多くのイカルが集まりますが、こうなると決まってケンカが始まり、あっちでもこっちでも、大きなくちばしを付き合わせて大変な騒ぎです。そのかたわらでは「いざこざは、我関せず」と、ケンカを尻目に喉を潤す者など、まるで人間社会を垣間見ているようないろいろな姿が観察できます。
ジュズダマの実が少なくなり田んぼの土が顔をのぞかせると、雪日の緊迫感(きんぱくかん)はどこへやら、10羽ほどに小さくなった群れが岸辺の木に集い、春の陽を浴びながらゆったりと休んでいます。このイカルたちも間もなくここから姿を消すことでしょう。それまでもう少し彼らを観ていきたいと思います。
文責 増田 克也
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