アホ毛、それともチョンマゲ


繁殖用の羽に着替えたオスのキンクロハジロ
 
 本校から西へ約3㎞下った、竹田地区の円山川に、キンクロハジロが浮(う)かんでいました。ご覧のとおり、キンクロハジロはカモの仲間ですが、よく見かけるマガモやカルガモのように、名前の最後に“カモ”という文字がありません。

全長は約45㎝、マガモやカルガモより小柄で、一回り以上小さい印象だ

 
それは、命名者が凝(こ)った名前を付けるのが面倒(めんどう)だったのか、はたまたモノトーンの色彩(しきさい)がよほど印象的だったためか、定かではありませんが、見た目がそのまま名前になっているのです。

改めて写真をご覧ください。目が色で身体の表面は色、そして、にはいラインが・・・ほら、金黒羽白(キンクロハジロ)でしょ。

このキンクロハジロ、本校の周辺では、ワンシーズンに1度か2度しか見ることがない、結構、珍(めずら)しいカモですが、都市部の公園などの池にはたくさん棲(す)み着いています。しかも、餌(え)づけされているものが多いため、物怖(ものお)じすることなく人に近寄って来ます。ですから、写真を撮(と)るのもお茶の子さいさい。スマホやケータイなどで、簡単にアップの写真が撮影(さつえい)できてしまうのです。


但馬のキンクロハジロは逃げる逃げる! 顔の側面をこちらに向け、うろたえた様子で遠ざかる

 一方、但馬ではスマホなんてとんでもありません。望遠が利くカメラ使って距離(きょり)をとっても・・・見てください、この及(およ)び腰(ごし)を。斜(しゃ)に構えて、こちらを警戒(けいかい)しながらどんどん離(はな)れていきます。まあ「餌づけされている個体より、野性味があって良い」と言えばそれまでですが、なんとも愛想がありません。



繁殖期のオスには、トレードマークのチョンマゲがある 

ところで、このキンクロハジロですが、頭におもしろい特徴(とくちょう)があることに気付かれましたか? それは、後頭部から後ろへ向けて、ピョコンと飛び出したチョンマゲです。これは冠羽(かんう)と呼ばれる、いわゆる飾(かざ)り羽ですが、私が見る限り、何かのために役立っているとは思えません。

  
メスにも小さな冠羽があるが、見る方向によってほとんどわからない場合がある 

しかしながら、このチョンマゲは繁殖期(はんしょくき)のオスだけに発達するものですから、メスに対して自身をアピールするための大切なアイテムなのしょう。メスにすれば「あら、あの方のチョンマゲ、す・て・き」なんてことになるのでしょうか。 



頭を振ると水しぶきを上げて、冠羽がなびいた




 伸び上がり、胸を反らせて大きく羽ばたく

先日、ある人がキンクロハジロを見て「あの鳥、アホ毛があるやん」とつぶやきまし た。私は「えっ、アホ毛?」聞き慣れない言葉に戸惑(とまど)い、早速、調べてみると、アニメキャラクターなどの頭のてっぺんから飛び出している、始末の悪いくせ毛のようなものをアホ毛というようです。

言葉の意味はともかくてして、アホ毛とは、あまり耳障りがよくありません。「アホ毛のカモ」なんて呼ばれるとキンクロハジロに気の毒ですし、そもそも、くせ毛でメスのハートを射止められるとは思えません。やっぱりあれはチョンマゲでしょう。

いずれにしろ、桜が散り季節が進むにつれ、キンクロハジロには、北の地へ旅立つ時が迫(せま)っています。彼(かれ)らのユニークなチョンマゲもこれで見納めとなることでしょう。

チョンマゲをブルッと一振(ひとふ)りして、ぐーんと伸(の)び上がり大きく羽ばたいたキンクロハジロの金色に輝(かがや)く目は、遠く郷里を見据(みす)えているようでした。

 文責 増田 克也
 


“自然のページ”のご意見ご感想をメールでお寄せください
Email mtajimashizen@pref.hyogo.lg.jp