但馬南部へ進出中


皮肉にも、ロードキルによって、その土地に棲む生物の存在に気付かされることがある
 
 
 冷たい雨が降る早朝のこと、道端(みちばた)に見慣れない動物が倒(たお)れていました。遠くから一見したところ、ネコのように見えましたが、近づき顔を覗(のぞ)き込(こ)むと、それは初めて目の当たりにするハクビシンでした。

全長は約1メートル、雰囲気はネコやタヌキに似ている。足が短く重心が低い体は高い場所でも安定して行動できそうだ。

 
 表面を見る限り、目立った外傷はありませんが、この状況(じょうきょう)からして、交通事故であることは間違(まちが)いないでしょう。全長約1メートル、頭は小さくシッポは太くて長い印象です。顔には鼻先から頭の後ろまで伸(の)びる、一本の白い筋模様があり、これがハクビシンという名前の由来になっています。


頭部は小さく、大人の握り拳より一回り大きい程度。暗闇でセンサーの役目をするのだろうか、長いヒゲがびっしりと生えている

鼻先から後頭部まで伸びる、白い筋模様。これがハクビシンという名前の由来になっている。漢字では「白鼻芯」と書く。


身近な動物では、キツネ、タヌキ、ネコ、イヌの指は4本。イタチ、テン、アライグマ、そしてハクビシンが5本。

 
 前足に注目すると、タヌキやネコなどの指は4本ですが、ハクビシンは5本もあります。木登りが得意なハクビシン。それもそのはず、足の肉球を見れば納得です。特に人間でいう所の、手の平の部分に当たる複雑な肉球には驚(おどろ)かされました。
 平面的なイヌのものと比べれば、ハクビシンの肉球がいかに発達しているかがよくわかります。


平面的なイヌの肉球。これではとても木には登れないが、音もなく獲物に接近し、地面を蹴って長距離を走るには打って付けだ。


発達した肉球に、滑り止めまで装備した足裏は、鬼に金棒。肉球の作りを見ると、ある程度なら人間の手のように、物を握ることができるのではないかと思われる
 
 
 後足にも丈夫(じょうぶ)そうな肉球があり、中央の矢印で示した部分には、滑(すべ)り止めの役目をする、ザラザラとした皮膚(ひふ)が見えています。この発達した肉球や滑り止めを、意にままに操り、対象物をしっかりとホールドして、垂直な幹もなんのその、するするっと器用に登るのでしょう。時には電線を伝って移動するらしいのですが、細い電線をむんずと掴(つか)み、長いシッポでバランスを取りながら歩く様子が目に浮(う)かぶようです。


環境省自然環境局生物多様性センターの分布図からもハクビシンの進出ぶりがよくわかる。
 
 
 ところでこのハクビシンは、いったい何の仲間でしょう。どこなくタヌキに似ているからイヌ科でしょうか、それとも、木登りが上手なのでネコ科でしょうか。実は、ジャコウネコ科の動物です。

 ジャコウネコと言えば、東南アジアなどに生息する動物ですので、和のイメージの欠片(かけら)もありません。そう思ってハクビシンを見直せば、エキゾチックな雰囲気(ふんいき)を漂(ただよ)わせています。

 ハクビシンのルーツは、過去に外国から持ち込まれた外来生物との見方が大方ですが、その移入元や時期などの詳(くわ)しいことはわかっていないそうです。当初、四国や関東の一部に分布していたものが、近年ではほぼ全国に広がり、その数を増やしています。


 これまで本校の周辺では、タヌキに似た奇妙(きみょう)な動物がいるという話が聞こえたり、ブドウの収穫期(しゅうかくき)に実を食べてしまう輩(やから)が、どうやらハクビシンではないかなどと、噂(うわさ)されていましたが、存在の有無はベールに包まれていました。今回の件で「やっぱり居たんだ!」と、動かぬ証拠(しょうこ)を掴んだ思いです。

 各地で農業被害(のうぎょうひがい)や、家屋へ侵入(かおくしんにゅう)して排泄(はいせつ)するなどの被害が報告されているハクビシン。本校周辺についても、今後の成り行きを注視する必要があります。


実際には、狼爪[脚の高い位置にある、親指に相当する小さな指]があるので5本指ですが、退化して地面には接触しないため4本指としました。
 文責 増田 克也
 


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