責めを負わされるウソ


 本校の自然観察フィールド、朝来山へ足を踏(ふ)み入れること約2時間。「ザック、ザック」雪を踏みしめる足音の合間に、口笛に似た、か細い声が聞こえたような気がしました。余りにも慎(つつ)ましい声なので、声の主は遠くにいるように感じますが、立ち止まり耳を澄(す)ませば「フィ〜フィ〜」、確かに谷側の立木から、その声は聞こえて来ます。

 三歩ほど谷側に移動して見上げると、赤い襟巻(えりま)きが鮮(あざ)やかな、オスのウソが枝に掴(つか)まっています。カメラを構えてシャッターを押(お)しましたが、その音で驚(おどろ)かせてしまったようで、急に体の向きを変えて飛んで行ってしまいました
 逃(に)げるウソを目で追うと、一羽だと思っていたものが、数羽もいるではありませんか。ウソたちは遠くへは行かず、近くの木に集まり、こちらを窺(うかが)っているので、静かに待っていれば、再び戻(もど)って来るはずです。

 雪の中で動かずに待つこと10分、15分。案の定、一羽のウソが戻ってきました。それは喉元(のどもと)に赤色がないシックなメスで、ほぼ真上に留まってくれました。それを見て安心したのでしょう、パラパラと他のウソたちも集まり、中には余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)で、大きく頭を傾(かし)げ、食事を始めるものもいます。

 それでは、ここでウソの紹介(しょうかい)をします。まず、気になるのはこの名前ですね。みなさんも“ウソ”だなんて、随分(ずいぶん)、へんてこな名前だと思われたことでしょう。その由来は、鳴き声が口笛のように聞こえるので「口笛を吹(ふ)く」という意味の「うそぶく」から採られているということです。
 その口笛が聞かれるのは、本校では冬季限定。繁殖地(はんしょくち)は本州中部以北の高山で、冬に九州以北の平地へ移動する冬鳥です。但(ただ)し、兵庫県は近畿圏(きんきけん)にありながら、県内最高峰(さいこうほう)の氷ノ山で、繁殖期に当たる初夏に姿が確認されていますので、繁殖している可能性は否定できません。

  話を朝来山のウソに戻しましょう。こちらのオスは、手近な場所に食べ物がなくなれば、下にぐーんと体を伸(の)ばしますが、本来、丸い体はそれほど伸びもせず・・・その様子は、ゆるキャラの着ぐるみが足掻(あが)いているようで、思わず笑ってしまいました。スズメより一回り大きいふくよかな体に、控(ひか)えめなおちょぼ口が、ウソを一層(いっそう)愛らしく感じさせます。

 そんな憎(にく)めないウソも、害鳥のレッテルを貼(は)られ、しばしばメディアに登場することがあります。その時季は決まって春で、「桜の花が少ないのは、ウソが花芽を食べてしまったからだ!」という論調です。

 ウソは確かに桜の花芽を食べます。しかし、そればかりを狙(ねら)って食べている訳ではありません。実際に今回は、フサザクラの種子を食べていましたし、以前に出会った本校のウソたちも、ウツギイタドリヘクソカズラタニウツギ、そしてコバノミツバツツジなど、食物として利用する植物は多彩(たさい)です。反論もできず、一方的に責めを負わされるウソが気の毒で、少しばかり、かばい立てしたくなる私です。

文責 増田 克也


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