川面にぷかぷかロシア帽


 南但馬自然学校から数キロ離(はな)れた、円山川の中流域には、冬にカモなどがよく集まる場所があります。いつの頃(ころ)からか、そこを通りかかる度に足を止め、見渡(みわた)せる範囲(はんい)をくまなく検索(けんさく)するのが習慣になりました。

 ある日のこと、遠く80メートルほど離れた対岸の付近にいる、見慣れない水鳥が目に留まりました。それは、カイツブリの後について泳ぎ、さながら「私もカイツブリよ・・・」とでも言いたげに連れ立っていましたが、褐色(かっしょく)のカイツブリとは似ても似つかない、白黒のツートーンが遠目からもハッキリとわかります。

 早速、双眼鏡(そうがんきょう)を覗(のぞ)けば、それはカイツブリはカイツブリでも、越冬(えっとう)のために日本へやって来るハジロカイツブリです。その後も、遠くを漂(ただよ)っているだけでこちらへ近寄る気配はありません。この日は、姿を確認しただけで引き上げました。

 数日後、川に立ち寄ると、先日よりいくらか近くで足を高く上げ、シンクロナイズドスイミングのようなポーズをとっているではありませんか。
 潜水(せんすい)が得意なカイツブリ類の足は、スクリューのように立派で、しかも、水中で大きな推進力を得られるように、お尻(しり)に近い胴体(どうたい)の後ろの方に付いています。このような潜水に特化した足も、歩行の際には、ペンギン風に体を縦に起こさないとバランスが取れないため大変不便です。

 「あの足は陸に上がると、さぞかし歩きにくいだろう」などと、余計な心配をしながら眺(なが)めていると、ハジロカイツブリは、ぷかぷか浮(う)かびながら水に流され、徐々(じょじょ)にこちらへ近づいて来ます・・・・そして潜水!
 次にプカッと水中から浮かび上がった場所は、約15メートルの至近距離(しきんきょり)です。すかさずシャッターを押(お)しましたが、素早いハジロカイツブリは既(すで)に水の中、2コマ目に写っていたのは水しぶきだけでした

 何度か、潜水を繰(く)り返すうち、くちばしに魚を捕(と)らえて水面に上がって来ました。獲物は、この辺りの方言で“カンスケ”と呼ぶカワムツのようです。
 水中をすばしっこく泳ぐ魚を捕らえるのですから、ハジロカイツブリの潜水能力は大したものです。その高い運動能力とは裏腹に、水面をぷかぷかと漂う後ろ姿は大層のんびりとしています。
 見てください、頭を下げれぼ、あったかそうなロシア帽(ぼう)に瓜(うり)二つ。思わず触(ふ)れてみたくなるようなロシア帽に見とれていると、ズボッ!足ヒレで水を蹴(け)って、再び潜水を始めるハジロカイツブリでした。

 この度、ハジロカイツブリを観察していて、気がかりなことがありました。それは、目やくちばしが化膿(かのう)しているのか、沢山(たくさん)のできものがあることです。行動を見る限り、今のところ動作も機敏(きびん)で食欲も旺盛(おうせい)、至って健康そうですが、果たして冬を無事に越(こ)せるのでしょうか。ハジロカイツブリの行く末が思いやられます。

文責 増田 克也


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