雪の河川敷で



 前日の雪が解け始めた午後、川土手を散策していると、対岸の法面(のりめん)に茂(しげ)るブッシュの中に、オスのハイタカが潜(ひそ)んでいました。ハイタカは冬によく見られる、小型の猛禽類(もうきんるい)で、その大きさはハトほどしかありませんが、小回りが利く体を生かして、獲物(えもの)をどこまでも追い詰(つ)める敏捷(びんしょう)なハンターは、小鳥や小動物にとって恐(おそ)ろしい存在です。

 ハイタカはこちらに背中を向け、しきりに下の方を気にしている様子で、地面に向けて何度も首を傾(かし)げます。私の存在に気付いているのか、時折、こちらへ投げかける鋭(するど)い視線にドキッ!その度に、まるで標的にされた気分になり、背筋が凍(こお)り付く思いを味わいました。
 
 それにしても、首がよく回ること。左右にクルリとほぼ180度も回転できますから、真後ろを見ることなど朝飯前。ほぼ正面に目が並ぶ猛禽類は、首を回すことで狭(せま)い視野を補っているのです。

 10分、15分・・・どれくらい時間が経ったでしょうか。不意に大きく足踏(あしぶ)みをして向き直り、低く構えたかと思うと、音もなくアッという間に飛び出して行きました。双眼鏡(そうがんきょう)で行くへを追うと、50メートルほど先の、対岸にある茂みに突(つ)っ込(こ)んだようです。

 はやる気持ちを抑(おさ)えてそっと接近すれば、枯(か)れ草が混み合った法面で、翼(つばさ)を広げ覆(おお)い被(かぶ)さるように伏(ふ)せているではありませんか。このポーズは足元に獲物を押(お)さえ込んでいるはずです。滅多(めった)に見られない捕食(ほしょく)シーンを観察できるチャンスですが、いかんせん、ここからでは見通しが利きません。

 そこで対岸へ回り込み、接近を試みることにしました。じわりじわりと距離(きょり)を詰めていくと、ハイタカは「もうこれ以上はダメ」と言わんばかりに、こちらに顔を向けました。見れば、くちばしの先に肉片を付けています。
 息を殺し静観していると、再び視線を落とし、脚(あし)で押さえつけた獲物を、鋭いカギ状のくちばしで引き裂(さ)き、そして食べます。捕食シーンを目の当たりにしたものの、残念なことにここでも枯れ草や雪に邪魔(じゃま)をされ、肝心(かんじん)な足元を見ることができず、結局、何を食べているのか判らずじまいです。「もう少し角度を変えて・・・」と見通せる場所を模索(もさく)している間に、ハイタカはあっけなく飛んでしまいました。

 それでは、気を取り直して現場検証です。雪を赤く染めた血痕(けっこん)、そして点々と灰色のものが散らかっています。顔を近づけのぞき込むと、それは羽根ではなく獣毛(じゅうもう)でした。血痕のサイズや毛色などから推測すれば、獲物はおそらくハタネズミだと思われます。

 ここから、当初ハイタカがいた場所を望むと、それは遙(はる)か遠くに見えます。よくもまあ、50メートルも離(はな)れた所から、この小さな獲物を見つけられたもだと、人間とは比べものにはならない、卓越(たくえつ)した視力に舌を巻きつつ現場を後にしました。

文責 増田 克也


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