YOUは何しに



 この季節、ぐるりを山に囲まれた当地では、朝霧(あさぎり)で一日が始まることが多くなります。そんな白い朝を迎(むか)えたある日、集落の上を飛ぶ大きな鳥のシルエットを見つけました。

 その鳥の大きさはトビほどもありましたが、細長い翼(つばさ)はトビのものではありません。また、ヒラヒラッっと急に向きを変える飛び方は、タカの仲間でもないようです。
 盆地(ぼんち)の中を縦横無尽(じゅうおうむじん)に飛び回り、双眼鏡(そうがんきょう)で追っても見えなくなるほど遠くまで行ってしまったかと思うと、突(とつ)として霧の中から姿を現します。何度も見失いながらも、追跡(ついせき)を続けましたが、この霧では撮影(さつえい)どころか思うように観察もできません。

 深い霧の中でも、スマートな翼は目立ちます。例えるなら、まるでグライダー。何度か姿を捕(と)らえるうちに、翼を浅いV字に保ちながらこちらへ接近し、ついには頭上を飛び去りました。それに合わせてカメラをほぼ真上に構え、右から左へ振(ふ)り何とか撮影したカモメに似たこの大きな鳥は、オオミズナギドリでした。

 後で写真を確認すると、偶然(ぐうぜん)、アトリと思われる鳥と一緒(いっしょ)に写っているものがありました。アトリはスズメほどの小鳥ですから、翼を広げると120センチにもなるオオミズナギドリがいかに大きいかがよく分かります。

 正体が判明したところで一件落着・・・とはいかず、私の頭の中は「?」でいっぱいになりました。それというのも、オオミズナギドリは日本近海の *離島(りとう)で繁殖(はんしょく)する海洋性の野鳥で、内陸ではまず見られないどころか、海岸へ近づくことも少ないと言われる、正真正銘(しょうしんしょうめい)の海鳥なのです。
 
 翼を見れば分かるように、1日に数百キロも移動する高い飛翔能力(ひしょうのうりょく)を持っているので、その気になれば海からこちらまで、ひとっ飛びでしょうが、このオオミズナギドリが、繁殖地でもなくエサもない本校の近くまで何のためにやって来たのか、いろいろ考えても全く思いつくところがありません。

 何かの気まぐれか、それとも単なる暇(ひま)つぶしか・・・苦し紛(まぎ)れに、近年、人気沸騰中(にんきふっとうちゅう)の朝霧に浮(う)かぶ竹田城跡(たけだじょうせき)でも見物に来たとでもしておきましょうか。

 *本校の近くでは京都府舞鶴市(まいづるし)の冠島(かんむりじま)が、繁殖地として天然記念物に指定されています。

文責 増田 克也


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