兵庫県の最高峰(さいこうほう)、6月の氷ノ山は野鳥の声であふれていました。「ウグイス、クロジ、コルリにオオルリも聞こえる・・・」いくらか野鳥に親しんでいると、声を聞いただけでその姿が浮(う)かんでくるものです。

 ところが「ん、この声はいったい何だ?」傾(かたむ)けた耳に、聞き慣れない声が飛び込(こ)んできました。複雑な節回しをあえて文字にすれば「チョビチョビホイチョビ チョビチョビホイチョビ ビィビィビィビィ」でしょうか。ともかく上の画像にある“?”をクリックしてその声を聞いてください。

 謎(なぞ)の声は何度か聞こえましたが、すぐに答えは出てきません。あれでもない、これでもない、頭に浮(う)かぶ声の主をふるいにかけ消去法でようやく導き出しました。
 「わかった、この声はソウシチョウだ!」しかし「あぁ、これでスッキリ!」などと単純には喜べず、胸中は複雑なものがあります。

 本来、ソウシチョウは日本の野鳥ではありません。原産地は東南アジアや中国などの諸外国で、いわゆる外来生物なのです。大きさはスズメと同じくらいで、体色はうぐいす色、赤いくちばしに、黄色のグラデーションが広がる喉(のど)、羽には黄色やオレンジ色のラインが入った美しい小鳥です。

 ソウシチョウは姿と声が美しい故に、愛玩用(あいがんよう)として輸入された他、化粧品(けしょうひん)の“ウグイスの糞(ふん)”を生産するため、大量に国内へ持ち込まれました。
 後に、放棄(ほうき)されたり、逃(に)げ出したりしたものが、各地で野生化し、2005年に施行(しこう)された外来生物法で「日本の生物・生態系に重大な被害(ひがい)を与(あた)えるもの」として、飼育や輸入などが法律で規制された「特定外来生物」に指定されました。

 豊かな自然環境(しぜんかんきょう)が残る氷ノ山でも、10年ほど前から、時折ソウシチョウの声が聞こえるようになりました。標高1000メートル級の山地にある、笹藪(ささやぶ)などの環境を好むソウシチョウが増えれば、同じ環境で生息するウグイスコルリといった、在来の野鳥に与える影響(えいきょう)が心配されます。

 神戸六甲山系(こうべろっこうっさんけい)を皮切りに、全国へ分布を広げているソウシチョウ。近年、爆発的(ばくはつてき)に個体数が増加しているらしく、今後、本校の朝来山を含(ふく)む、標高の低い山々への生息域拡大に注意を払(はら)う必要があります。

文責 増田 克也

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