テントウムシが生まれた !?


 「テントウムシは卵から生まれるんですか?」「キッチン倉庫にいるんです!たくさんテントウムシみたいなのが・・・」私が事務室へ戻(もど)るやいなや、矢継(やつぎ)ぎ早に話しかけてきたのは、本校スタッフのMさんです。

 早速、卵から生まれたてのテントウムシがいるというキッチン倉庫に向かうと、それは壁(かべ)に取り付けられた掲示板(けいじばん)の注意書きに、ゴミか汚(よご)れのようにくっついていました。

 顔を近づけ、まじまじとのぞき込(こ)めば、赤色をした体長3oほどの、確かにテントウムシのミニチュア版とも思える虫が、カプセルのような卵の周りに集まっています。

 一通り写真を撮(と)り終え、事務室へ戻ってこの虫の正体を調べることにしました。撮影(さつえい)に使用した三脚(さんきゃく)をたたもうと目をやると、雲台の上に懐(なつ)かしい虫がちょこんと乗っかっているではありませんか。
 俗称(ぞくしょう)、便所コオロギ・・・カマドウマです。体の3倍もあるでしょうか、長い触角(しょっかく)を上下左右に動かして辺りを伺(うかが)っています。

 土間に炊事場(すいじば)があるような以前の住宅は、カマドウマがそこかしこにいたものです。人の方も特にそれを気にするでもなく、一緒(いっしょ)に暮らしていました。今どきの住宅は機密性が高くなり、土間は消えて炊事場はシステムキッチンへと変化したため、すっかり姿を見かけなくなりました。

 それどころか、たまに人前に現れれば、見かけが気持ち悪いとの理由から「不快害虫」というカテゴリーに入れられたカマドウマは、駆除(くじょ)の対象とされることもあります。人に害を及(およ)ぼさない彼(かれ)らにはまったく気の毒なことです。

 今回、出会ったカマドウマは、お尻(しり)に産卵管があるのでメスでしょう。改めて体を眺(なが)めれば、背中に翅(はね)はなくジャンプすることに特化したフォルムはなかなかのものです。ほどなく後脚(あとあし)を体に引きつけると、カマドウマは音もなく跳(は)ね、一瞬(いっしゅん)のうちに姿を消してしまいました。

 さて、テントウムシのような虫に話を戻しましょう。正体を調べるべく、インターネットでテントウムシの幼虫を検索(けんさく)しましたが、出てくる画像はキッチン倉庫にいた虫とは似ても似つかないのもばかりでした。どうやらテントウムシの幼虫ではなさそうです。それでは、いったい・・・? 以前、このような形の虫を、どこかで見たような気がするのですが、記憶(きおく)の糸を手繰(たぐ)れそうになると、途中(とちゅう)で切れてしまいます。

 モヤモヤとした気分のまま、昆虫(こんちゅう)に詳(くわ)しい方に伺うことにしました。すると驚(おどろ)くなかれ、この虫はカメムシの幼虫でした。生まれたばかりなので種類までは特定できないと前置きをされましたが、間違(まちが)いなくカメムシだということです。
 裃(かみしも)を着たような怒(いか)り肩(がた)のカメムシと言えども、生まれた当初は、テントウムシに似た、赤くて丸い愛らしい姿をしているのですね。
 そして、卵の殻(から)に残る黒い三角形のものは、幼虫が卵から外へ出る際に使うカッターで、生まれた後は不要になるため、殻にくっついているそうです。

 今頃(いまごろ)になって、「どこかで見たような気がする」と、モヤモヤしていた記憶(きおく)がやっと蘇(よみがえ)りました。何年も前に兵庫県香美町の山中で、グリーンと赤茶色をしたカメムシの幼虫を見たことを・・・あぁスッキリ!

文責 増田 克也

“自然のページ”のご意見ご感想をメールでお寄せください