コウノトリがやって来た


 田植えの準備が進められる、本校からほど近い朝来市山東町の田んぼに、2羽のコウノトリが舞(ま)い降りました。白と黒に塗(ぬ)り分けられたその姿は、遠目からもすぐに「コウノトリだ!」とわかるほど特徴的(とくちょうてき)で、よく見かけるアオサギダイサギよりもずっと逞(たくま)しい印象です。

 コウノトリは、野外への放鳥が進められている、但馬北部の豊岡市まで出向くと、今では普通(ふつう)に見られるので、なにも驚(おどろ)くことはありませんが、本校のこんなに近くまでやって来たとあれば放ってはおけません。さあ早速、観察開始です。

 観察ができる距離(きょり)までゆっくり近づくと、2羽のコウノトリは落ち着いた雰囲気(ふんいき)で田んぼの中に佇(たたず)んでいます。そのうち、手前のものが、首を前に突(つ)き出し、ブルブルッと頭を振(ふ)るわせたのを合図に、2羽は羽繕(はづくろ)いを始めました。
 一通り羽繕いが終わると納得したのか、片方の脚(あし)を体に引き込(こ)んだ一本脚のポーズをとり、農作業をする人が近づいても、くちばしを胸に埋(うず)めてリラックスした様子です。

 「このまま眠(ねむ)ってしまうのか?」と思った矢先のこと、2羽はズンズン歩き出し互(たが)いの距離をとると、向き合って空を仰(あお)ぎ、くちばしを大きく開ける仕草を何度か見せました。この突飛(とっぴ)な行動が意味するものはわかりませんが、何らかのコミュニケーションをとる手段なのでしょう。

 その後、2羽は連れだって畦(あぜ)に上がり、食べ物を探します。くちばしで草の中を探っては、めぼしい物を放り出し、主にカエルを捕(と)らえていました。

 田んぼにコウノトリを見つけて、3時間近くが経過しました。この頃(ころ)になると、白と黒をした大きな鳥の存在に気付く人が出てきたようです。おや、こちらではコウノトリ談義が始まりましたよ。

 なかなか愉快(ゆかい)な行動を見せてくれるコウノトリたちですが、2羽のプロフィールが気になるところです。コウノトリは個体識別ができるように、それぞれ異なる色の足環(あしわ)を着けています。兵庫県立コウノトリの郷公園のホームページでは、この足環の情報が公開されているので、簡単にコウノトリの素性を調べることができます。

 では、今回訪れたコウノトリを紹介(しょうかい)しましょう。まず、左脚に上から「黒、黄、緑」の足環を着けたものは、個体番号「J0009

     右脚の足環には、個体番号が刻まれている

」6歳(さい)のメスです。そして「黒、赤、青」の足環は個体番号「J0013」5歳のオスでした。2羽は、豊岡市戸島地区の人口巣塔(じんこうすとう)から巣立った姉弟(きょうだい)コウノトリです。

 午後4時頃から雨粒(あまつぶ)が落ちてきたこの日、5時を過ぎると辺りは随分(ずいぶん)暗くなってきました。コウノトリはアスファルト道路を横断して、餌場(えさば)を移動していきます。これ以上、深追いするのは気の毒に思い、ここで引き上げることにしました。

 翌日、コウノトリを求めて周辺を探索(たんさく)しましたが、既(すで)に姿はありませんでした。次は、いつどんなコウノトリが訪れるでしょう、その日を楽しみにして待つことにします。

文責 増田 克也

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