ヒョウ柄の蝶と小宇宙の花


 編集用のパソコンが機嫌(きげん)を損ね、休載(きゅうさい)させていただいていた間に、ぐっと秋が深まりました。そのような訳で、今回から暫くの間、お届けする自然のページの内容と、暦(こよみ)に幾分(いくぶん)時間差が生じていますが、ご了承(りょうしょう)いただきたいと思います。これから駆(か)け足で、季節を追いかけていきますので、どうぞよろしくお願いします。

 さあ、久しぶりの更新(こうしん)に登場するのは、セイタカアワダチソウにやってきたチョウです。羽に黒い縁(ふち)取りがあるヒョウ柄(がら)の蝶、名前は体の特徴(とくちょう)をそのまま表した“ツマグロヒョウモン”と言います。

 そっと近寄れば、なんと目玉までヒョウ柄です。血相を変えて逃(に)げ出すこともなく、長く伸(の)ばした口を“くの字”に曲げて、チューチューと蜜(みつ)を吸い上げる音が聞こえそうなほど、接近を許してくれるのも、このチョウの魅力(みりょく)でしょうか。
 ツマグロヒョウモンは、本来、南方のチョウだと聞いています。戦前までは熱帯、亜熱帯地方でしか見られなかったらしいので、この辺りでは大変珍しい存在だったのでしょう。ところが、近年の温暖化に伴(ともな)い生息域を北進させ、今では本校の周辺でも定着し、すっかり身近な存在になっています。

 成虫を普通(ふつう)に見かけるということは、幼虫だってたくさんいます。体の真ん中に赤いラインが入った、こんな虫を庭先などで見つけたことはありませんか。これがツマグロヒョウモンの幼虫です。赤と黒の体色と、無数に突(つ)き出した針(はり)にドキッとしますが、これは見かけ倒(だお)しで毒はありません。
 この幼虫は、スミレを専門に食べる菜食主義者です。野生のスミレはもちろんですが、パンジーやビオラといった、スミレ科の園芸種も食料になっています。ガーデニングに多用され、寒い時季にもよく育つ園芸植物が、ツマグロヒョウモンの北進を後押(お)しする一因ではないでしょうか。

 ツマグロヒョウモンが去った近くには、アケボノソウが咲いています。白地の花びらに、対に並んだ黄色の丸印。先端(せんたん)には紫色(むらさきいろ)の鹿(か)の子模様。これらの模様を、白々と明けいく空に残る星に見立てたのが名前の由来です。昔の人は、アケボノソウの花に小宇宙を見いだしていたのでしょう。

 アケボノソウの星に心を奪(うば)われたのは、人間ばかりではありません。こちらの黒いハチも黄色い星にご執心(しゅうしん)のようで、あちらこちらの星を訪ねては、頭を近づけています。それもそのはず、この黄色い星からは蜜が出ているのです。花びらを拡大すると、左の星は今にもあふれんばかりの蜜を蓄(たくわ)えています。

 続いてやってきたのはハナアブの仲間です。このハナアブは食欲旺盛(しょくよくおうせい)です。ものの10秒足らずで片方の星を吸い取ると、次から次へと星を渡(わた)り歩いていました。

 アケボノソウに集まるのは、蜜を求める虫だけではなく、その虫たちを狙うハンターも潜(ひそ)んでいます。先ほどのハチはつぼみの裏側から危険が忍(しの)び寄っていることに気づいているのでしょうか。アケボノソウの小宇宙を舞台(ぶたい)に、新たなドラマが生まれそうな予感がします。

文責 増田 克也


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