山裾でお宝に


 山裾(やますそ)で、1メートルほどの茎(くき)をすっと伸(の)ばして、オタカラコウが咲(さ)いています。この花に初めて出会った時から、その立派な風貌(ふうぼう)とインパクトのある名前が印象に残り、いっぺんに私のお気に入りの花となりました。
 名前に「宝」が付く植物なんてそうありません。名前を聞くだけで、有り難いというか、縁起(えんぎ)がいいというか・・・「なんだか良いことありそう!」そんな気分にさせてくれるのがオタカラコウです。

 空に突(つ)き出した茎を見ると、上の方はまだつぼみで、葉っぱのおくるみに包まれた、赤ん坊(ぼう)のようにひっそりと息づいています。そして、そのすぐ下のつぼみは、既(すで)に黄色い花が頭をのぞかせていました

 次に開いた花を見てみましょう。黄色い花びらは「ベェー」と舌でも出したような形で、5枚から8枚ほど付いています。おもしろいのは、しべの先端(せんたん)がくるっとカールしているところで、見方によっては、鼻メガネともオペラグラスとも見て取れます。

 気が付くと、いつの間にかセセリチョウの仲間、イチモンジセセリが来ていました。オタカラコウの蜜(みつ)の味はいかがでしょうか。お宝だけにさぞゴージャス?・・・かもしれませんね。

 オタカラコウの周りには、クロバナヒキオコシがたくさんありました。一見すると、ただ葉っぱが青々と茂(しげ)っているだけのように見えますが、これでもしっかりと花を咲かせているのです。
 「花はどこに?」と思われるでしょう。花はこんなところに咲いています。ご覧ください、花の小さいこと小さいこと。これだけ小さいと遠目にはまったく目立ちませんが、顔を近づけてよく見れば、頭巾(ずきん)のようでユニークな形をしています。

 こんなに小さな花にも虫はやって来ます。この写真の右端(みぎはし)で、花につかまっているのは、キアシトックリバチです。飛んで来てとまったまではよいものの、あまりに花が小さいため、体のバランスを取るのに四苦八苦している様子です。おや、こちらには蜜を求めて訪れる昆虫(こんちゅう)を待ち伏(ぶ)せるハンター、コカマキリも隠(かく)れていました。

 オタカラコウのしべが鼻メガネなら、こちらはサングラスでしょうか。この二つ連なった半月型の種を付けるのは、ヌスビトハギです。この時季、草むらに踏(ふ)み入れると、衣服にマジックテープで貼(は)りつけたように種がまとわりつきます。このひっつき虫、あまり人には歓迎(かんげい)されませんが、一月前の姿は、今では想像ができないほどファンタジックな装いです。

 その他には、しゅるしゅると伸びたツルボの群生や、こちらに向けて一輪だけ開いたミゾソバの花が、秋の山裾にピンクの彩(いろど)りを添(そ)えていました。

文責 増田 克也


“自然のページ”のご意見ご感想をメールでお寄せください