そぞろ歩けば花とクモ


 先月の猛暑(もうしょ)はどこへやら、このところ雨が続いて、朝夕は随分(ずいぶん)過ごしやすくなりました。どことなく秋めいてきた山際の土手では、ゆーらゆらとツルボの花が風に揺(ゆ)れています。

 ツルボは上の写真にあるように、小さな花が寄せ集まったユニークな形をしています。その天辺には月見だんごように、これから咲(さ)かせるつぼみを積み上げているかと思えば、花が開いているすぐ下では、早くも花は散ってありません。そして更(さら)にその下は、すでに結実していようです。ツルボは、下から上へ順に花を咲かせていきます。この花が咲く様子を早送りにすれば、きっと手持ち花火のように見えることでしょう。

 次に、全体を見てみましょう。ここには大小2つのツルボがありますが、不思議なことに葉が見あたりません。地面にある小さなフキの葉に似たものはチドメグサです。図鑑(ずかん)によると、ツルボは春と秋に葉を出すらしいのですが、秋の葉はまだこれからでしょうか。

 水辺には、秋を感じさせるツリフネソウが、一輪だけ咲いていました。ツリフネソウの名は、花の形が帆掛(ほか)け船に見えることから付いたということです。この花に出会う度に、なんとか帆掛け船を見いだそうと、上下左右、色々な角度から眺(なが)めるのですが、一向に帆掛け船は現れません。それどころか花の端(はし)にはカタツムリのような渦巻(うずま)きまであり、見れば見るほど奇妙(きみょう)な形です。

 参考にツリフネソウの学名を調べると“Iumpatiens”(インパチェンス)これは、「いらいらする、あせる、しびれを切らす」などの意味があります。ツリフネソウの何が、いらいらしたり、あせったり、しびれを切らすのかは解りませんが、絞(しぼ)りが入った花びらや、昆虫(こんちゅう)のサナギに似たつぼみの形は、いらいらしているようにも思えます。いずれにしても、名前の付け方は、情緒的(じょうちょてき)な日本と比べて、随分、隔(へだ)たりがあることを感じます。

 沢(さわ)の流れに、せり出して咲く黄色い花は、ミゾホオズキです。カメラをのぞいてシャッターを切ると、葉の上で跳(は)ねているものがありました。ファインダーをから目を外して見れば、体長1pにも満たないハエトリグモの一種、白い口ヒゲを蓄(たくわ)えたサンタクロースのようなネコハエトリがこちらを向いていました。
 とかく敬遠されることが多いクモですが、このハエトリグモの仲間が、ピョンピョン跳びはねる姿は愛敬たっぷりで、思わず微笑(ほほえ)んでしまいます。
 丸い目玉は、正面に大小2対、側面にもう1対、そして後ろにも1対、合計4対8つもあります。ですから、そっと真後ろから近づいても、最後方の目でしっかり見つめられています。これだけ目あれば、死角は皆無、さぞかし周囲がよく見えることでしょう。

 もっときれいに写真を撮ろうと、カメラを構え直した瞬間(しゅんかん)、ネコハエトリは得意のジャンプを繰(く)り出して、姿を消してしまいました。次回は、1234・・・・と、数えられるほど、その愛らしい目玉を、じっくりと見せてほしいものです。

文責 増田 克也


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