つぼみは袋から


 世の中には奇妙(きみょう)な植物があるものです。偶然(ぐうぜん)に通りかかった道端(みちばた)で、釘(くぎ)付けになってしまいました。何が奇妙かと言うと、まずは上の写真を見てください。2本の野草が写っていますが、袋状(ふくろじょう)に膨(ふく)らんだ葉っぱの付け根から、つぼみのようなものが頭をもたげています。
 更(さら)に近寄って覗(のぞ)き込むと、茎は弓のごとくしなり、今にもビョ〜ンと飛び出しそうな勢いです。これまで、こんな“からくり仕掛(じか)け”のような方法で生長をする植物など見たことがありません。

 この野草は一体なんという名前でしょう。周りにギザギザがあり、大きく切れ込(こ)む葉っぱを見れば、セリの仲間だと予想されます。調べると、やはりセリ科の“ノダケ(野竹)”でした。しかし、なぜセリが竹なのか見当もつきません。膨らんだ葉っぱの付け根から出てくるつぼみを、かぐや姫(ひめ)に見立て “竹”の文字を当てたとすればメルヘンですね。

 さて、名前が判ったところで、改めて辺りを探せば、数株のノダケを見つけることができました。そこには、袋から丸い塊(かたまり)がポン!と飛び出したものや、その丸い塊を破ってつぼみが出たものなど、様々な姿が見られ、中には花を咲(さ)かせているものもあります。

 この花をクローズアップすると、どうやら、紫色(むらさきいろ)の小さな粒(つぶ)のほとんどがまだつぼみです。このつぼみが花開くと、ぐーんと腕(うで)を伸ばすように、5本の雄(お)しべが現れて、中心にある黄色い雌(め)しべも露出(ろしゅつ)します。
 では、花びらはどこにあるのでしょう。実は申し訳程度に開いた、紫色の部分が花びらです。少し離(はな)れて見れば、花びらよりも雄しべが断然よく目立ち、それは、人気ミュージシャンのコンサート会場で沸(わ)き立つ観客のようで、随分(ずいぶん)、賑(にぎ)やかです。

 図鑑(ずかん)によると、ノダケの花期は9月から11月とあり、秋の野草に分類されていました。口を開けば「暑い暑い」とこぼす日々ですが、ノダケはしっかり次の季節を見据(みす)え、他に先駆(さきが)けて花を咲かせたようです。

 線香花火(せんこうはなび)のように広がった、涼(すず)しげなノダケを見つめ、ポタポタとアゴから落ちる汗(あせ)をぬぐいながら「あともう少し、もうちょっとで秋・・秋」念仏のように唱える、8月中旬(ちゅうじゅん)、猛暑(もうしょ)の昼下がりでした。

文責 増田 克也


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