トランペットスピーカー現る


 前回の“自然のページ”で取り上げた、ウバユリがやっとのことで咲(さ)きました棒状のつぼみが水平に開き始めてから4日後、見つけた日から数えると、優に半月が経過しています。四方八方に7つの花を突(つ)き出した姿は迫力(はくりょく)満点で、公民館や集会所などに設置されたトランペットスピーカーにそっくりです。

 花は付け根から先端(せんたん)までの長さが、約15pで、薄(うす)い黄緑色をした6枚の花びらを持っており、この細長い状態で満開です。花びらがカールして反っくり返り、雄(お)しべと雌(め)しべがむき出しになるオニユリとは対照的ですね。
 花の中を覗(のぞ)き込(こ)むと、花びらの内側には黒い粉をまぶしたような模様があり、奥(おく)にいくつかの雄しべと雌しべがあります。側面へ回り込み、花びらのスリットを少し広げたら、斜(なな)めに突き出た1本の雌しべと6本の雄しべが、隠(かく)れるように並んでいました。

 隣(となり)に咲いた花のスリットから、何やらうごめくものが見え隠れしています。正面から見てみると、足に大きな花粉だんごを付けたマルハナバチが蜜(みつ)を求めて入り込んでいましたが、とても窮屈(きゅうくつ)そうです。
 ウバユリの奥に行くにつれて狭(せま)くなる花の構造は、うまく昆虫(こんちゅう)たちを導き、次に、斜めに配置された雄しべと雌しべで、確実に受粉するシステムになっているものと思われます。

 ところで、この“ウバユリ”という名前ですが、どのような意味合いがあるのでしょう。当初から気になっていたので、早速、調べてみました。名前の由来は諸説あるようですが、その中でおもしろいものを紹介(しょうかい)します。

 ウバユリは漢字で“姥百合”と表し、“姥”は年配の女性、即(すなわ)ち、おばあさんのことです。ウバユリは花が咲く頃(ころ)には、葉がなくなるため、年をとって歯がなくなった、おばあさんにかけたということです。つまり「葉=歯」ですね。
 まったく落語のようでユーモラスな説ですが、これまで私が見たウバユリは、全てが花の時期に葉を枯(か)らせていた訳ではなく、今回のものも、いくつか虫食いの穴はあるものの、みずみずしい葉を残しています。
 この事から、この説はどうも“眉唾物”(まゆつばもの)です。なんだか洒落(しゃれ)を優先した作り話のように思えますが、自然観察会などで、子どもたちにお話しするときはいいですね。民話のようで、きっと印象に残ることでしょう。

 さて、無事に花開いたウバユリですが、この先どうしたものでしょう。個性的なユリですから、いっそのこと種を採取して、校内に蒔(ま)いてみようと思います。ただし、開花するまで6〜8年かかるらしいので、気長に待つしかありません。種を蒔いたことを忘れた頃に、いきなり「トランペットスピーカー出現!」となれば愉快(ゆかい)ですね。

文責 増田 克也


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