夏の花を探して


 間伐(かんばつ)が施(ほどこ)され、手入れの行き届いたスギ林を歩いていると、突然(とつぜん)、現れたのは、オカトラノオの群生です。小さな花が寄せ集まり、トラのシッポのような形に見えるのが、名前の由来になっています。
 これだけ花があると、昆虫(こんちゅう)たちが放っておく訳がありません。早速、腹の黄色い帯が目立つ、キオビツチバチがやって来ては花に取り付いていました。

 矢印に似たオカトラノオの花が、「あちらへ、あちらへ」と、無言で誘(いざな)うので、左に足を向けることにしました。すると、藪(やぶ)に埋(う)もれるように、小さなオレンジ色の花が咲(さ)いています。「これはひょっとして、希少種の野生ランか!?」期待して近づきましたが・・・残念!山裾(やますそ)や土手など、この時季には至る所で見られる、クロコスミヤでした。
 普段(ふだん)は、いくつも株が集まり、多くの花を付けているため、暑苦しく見えるので目もくれませんが、ぽつんと一輪だけ咲いた姿は、なかなかどうして美しいものです。アフリカ原産で情熱的な色合いのクロコスミヤですが、今回は、思わず“姫檜扇水仙(ひめひおうぎずいせん)”と和名で呼びたくなる、清楚(せいそ)な出で立ちでした。

 利用する人もさほどない山道にさしかかると、放射状に広がった葉っぱがありました。ロゼットと呼ばれるこの形状の葉っぱは、春に咲くショウジョウバカマのものに似ていますが、中心から40pも伸(の)びる茎(くき)の先には、白っぽい花が付いています。先ほどのクロコスミヤとは対照的で控(ひか)え目なこの花はノギランです。
 花をアップで見ると、控え目なイメージはどこへやら、独特な形の花がいくつも重なり、押(お)し合いへし合い、まるでピエロの集団でごった返しているようです。
 花をひとつひとつ見ていると、思いがけないものが目に留まりました。それは蚊(か)です。蚊がノギランの蜜(みつ)を吸っているではありませんか。「全ての蚊が吸血する訳ではなく、たとえ吸血する種類であっても、普段の食性は花の蜜や果汁(かじゅう)で、産卵期のメスだけが栄養補給のために吸血する・・・」頭では分かっていても、見ているだけで身体がむずがゆくなる思いでした。

 その他、目に付いたものとしては、今度は正真正銘(しょうしんしょうめい)のラン科、ネジバナが螺旋状(らせんじょう)に花を咲かせ、くちびるを突(つ)き出したような、シソ科特有の花をぐるりに付けたウツボグサ。そして、随分(ずいぶん)早咲きのヒキオコシには、黄色いふかふかの体毛が愛らしい、トラマルハナバチが蜜を求めていました。

文責 増田 克也


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