夏を食べる


 この頃(ごろ)、車で走っている最中に、割りと大きなオレンジ色の花が咲(さ)いているのを、しばしば見かけます。じっくり見たいのですが、脇見運転(わきみうんてん)をする訳にもいかないので、後で思い出しながら「キツネノカミソリにしては少し時期が早いし・・・」などと、あれやこれや考えて「ひょっとしてカンゾウかも?」当てずっぽに答えを出し、後日、現地へ確認に向かうと、「ピンポン!」珍(めずら)しく正解でした。

 これは、カンゾウはカンゾウでも、八重で咲くボリュームたっぷりの花が特徴的(とくちょうてき)なヤブカンゾウで、名前に“ヤブ”が付くだけあって、草に埋(う)もれるような、ゴチャゴチャとした場所に咲いていることが多く、まったく撮影者(さつえいしゃ)泣かせです。意識して見れば、民家の庭先田畑の近く、その他山裾(やますそ)など、身近なところに今が盛りと咲き誇(ほこ)っています。

 ヤブカンゾウは、古くに中国から帰化した植物で、ヒガンバナと同じく種ができないため、根っこで増える植物です。草丈(くさたけ)は長いものでは1m近くもあり、一見すると、弱々しく思える茎(くき)は、実際に触(ふ)れると、固い芯(しん)があってよくしなる、結構しっかりしたもので、クズが取り付いても直立しています。葉は、ススキのように細長く、40〜50pもあるでしょうか、ふくよかな花とは対照的で、大変シャープなものです。

 このヤブカンゾウは、すぐれた山菜で、春に出る若葉は、おひたしや、ぬた、味噌和(みそあ)えなどでよく食べられています。さすがにこの季節になると、硬(かた)くて食べられません。でも、残念に思わないでください。今でも食べられる部位があるのです。それは、つぼみ・・・
 「えっ、本当につぼみなんか食べられるの!?」と思われるかも知れませんが、これが簡単に調理できて、美味しいのです。

 それでは早速、色々な大きさのつぼみをいただいて、水洗いをしてから、衣をつけて油の中へダイブ。途中(とちゅう)で、つぼみが開いてくるのを愛(め)でながら揚(あ)げていきます。そうこうしている間にも、つぼみは天ぷら鍋(なべ)の中をプクプクと泡(あわ)を出しながら泳ぎ回り、アッという間に夕食の一品となりました。

 そうそう、味ですね。まず、食感は、「とろっ、ぬるっ」滑(ぬめ)りがありますが、決して気持ち悪いものではありません。例えるならオクラ程でもありませんが、似たような感触(かんしょく)です。口の中には、僅(わず)かな苦味を感じ、後から追いかけてきた、仄(ほの)かな甘(あま)みが広がります。全体にはあっさりした印象で、知らず知らずに箸(はし)が進みました。季節柄(きせつがら)、素麺(そうめん)にトッピングして、麺(めん)つゆで楽しむのはいかがでしょうか。

 さあ、みなさんも、夏の風味、ヤブカンゾウのつぼみを味わってみませんか。ただし、植物には有毒なものが存在します。ヤブカンゾウを見分ける自信がない方は、専門家の指導を仰(あお)いでください。決して自己判断で食べることがないようにお願いします。

文責 増田 克也


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