南国の装いで


 それは、野鳥の観察を始めた頃(ころ)のことです、野鳥図鑑(やちょうずかん)をパラパラとめくっていると、とんでもなく尾羽(おばね)が長い鳥のイラストが目に留まりました。「なんじゃこの鳥は・・・オナガドリか?」オナガドリは野鳥ではなく、突然変異(とつぜんへんい)のニワトリを人為的(じんいてき)に固定化したもの・・・全くの見当違(けんとうちが)いでした。
 図鑑に掲載(けいさい)されていた名前は、サンコウチョウ。なんでもこの鳥の鳴き声が、「ツキ[月]、ヒー[日]、ホシ[星] ホイホイホイ」と聞こえ、「月、日、星」三つの光で“サンコウチョウ[三光鳥]”と名付けられたそうです。

 先日、本校近くのスギやヒノキが植えられた、薄暗(うすぐら)い植林地に踏(ふ)み入ると、「ツキ、ヒー、ホシ、ホイホイホイ!」三つの光が頭上から降り注ぎました。見上げれば、ほぼ真上にあるスギの枝で、こちらに白いお腹を向けたオスのサンコウチョウがいるではありませんか。残念なことに、長い尾羽はスギの葉に邪魔(じゃま)されてよく見えませんが、それでも長さは十分に感じられます。

 資料によればサンコウチョウの全長は、オスで約45pとあります。よく目にするハシボソガラスで50p程度ですから、45pは結構大きな鳥に思えますが、胴体部分だけ見るとスズメほどの大きさです。
 そもそも全長の測り方は、くちばしの先から尾羽の先端(せんたん)までの寸法ですから、尾羽が胴体(どうたい)の約3倍もあるサンコウチョウは、数字の上では随分(ずいぶん)大きな鳥になってしまうのです。

 それにしても、こんなに華奢(きゃしゃ)な小鳥が、長い尾羽をリボンのようにはためかせながら、繁殖(はんしょく)のために東南アジアの諸国から海を渡(わたり)日本へやってくるのですから、自然は偉大(いだい)かつ不思議です。

 サンコウチョウの長い尾羽には魅了(みりょう)されますが、他にもチャームポイントがあります。顔の辺りをアップにすると・・・見てください、目の周りを、ぐるっとドーナツのように取り囲んだコバルトブルーのアイリングを。サンコウチョウのアイリングを見つめると、この部分は羽毛ではなく皮膚(ひふ)であることを改めて認識させられます。
 アイリングのコバルトブルーは、そこだけに留まらず、くちばしにも色移りしています。そして、極めつけに、開いた口の中まで黄緑色なのですから、サンコウチョウは何とも南国情緒(なんごくじょうちょ)にあふれる装いではありませんか。この常夏のジャングルが似合いそうな野鳥が、日本の暗いスギやヒノキの植林地にいるとは、これもまた不思議なことです。

 現れたサンコウチョウは、右の翼(つばさ)を広げ、内側を丹念(たんねん)に羽繕(はずくろ)いし、次に大きく胸を反らして、喉元(のどもと)の羽毛を整え始めました。くちばしを動かす度に、頭にある小さなチョンマゲが右へ左へと揺(ゆ)れ、思わず笑いを誘(さそ)います。程なく羽繕いを終えたサンコウチョウは、尾羽をひるがえし林の奥(おく)へ姿を消して行きました。

 生息数の減少が叫(さけ)ばれて久しいサンコウチョウですが、近年、本校ではしばしば、その声を耳にするようになりました。ほら、「ツキ、ヒー、ホシ、ホイホイホイ」今日も子どもたちの歓声(かんせい)に混じって、三つの光が聞こえてきます。

文責 増田 克也



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