兵庫県でも繁殖中


 上の写真をご覧ください。スズメより少し大きい程度の黒い野鳥が、大口を開けてさえずっています。冴(さ)えない地味な色・・・と言ってしまえばそれまでですが、渋(しぶ)い濃淡(のうたん)がある黒色には深い味わいがあり、見飽(みあ)きることはありません。

 この鳥は名前を“クロジ”と言います。図鑑(ずかん)でクロジを調べると、繁殖地(はんしょくち)は“本州の中部以北”となっています。私の周りにある5冊の図鑑を見ても、やはり、中部以北と記されており、中でも、1986年に発行された図鑑には、「繁殖地の最西端(さいせいたん)は石川県白山」とありました。つまり兵庫県は繁殖地から随分(ずいぶん)外れているのです。

 それにもかかわらず、6月の繁殖期に兵庫県の北西に位置する東中国山地の山々では、クロジのさえずりがよく聞かれます。しかも、林道を進んで行くと、ほぼ等間隔(とうかんかく)で聞こえてくる場所があり、局地的ながら生息密度はかなり高いものと思われます。

 声は聞こえても、おいそれと姿を見られないのがクロジです。大変用心深い性質で、茂(しげ)った藪(やぶ)に潜(ひそ)み、開けたところには滅多(めった)に出てきません。そのため、写真を撮(と)るには撮っても、クロジの前に葉や枝がかかりスッキリとはいかず、ジレンマに陥(おちい)りそうになります。しかしながら、これもクロジの棲(す)む環境(かんきょう)を表現しているので、良しとしましょう。

 「ガサ・・ゴゾ」僅(わず)かに揺(ゆ)れる下草を頼(たよ)りに、見え隠(かく)れするクロジの姿を目で追うと、何度か同じルートを通っていることがわかりました。そこへ先回りをして静かに待つこと約30分。予想したとおりに出てきたクロジは、何かをくわえているように見えます。じっくり観察する間もなく林道を横断して、茂みへ姿を消しました。
 今度はクロジが通る場所に、もう少し近づき、身を隠して待つことにしました。現れたクロジはササの茎にとまり、虫らしきものをくわえています。更(さら)に写真を拡大すると、イモムシを二つ折りにしているではありませんか。捕らえる際に地面で奮闘(ふんとう)したのでしょう、よく見ればくちばしの先に砂粒(すなつぶ)も一緒(いっしょ)にくわえていました。

 このクロジの行動から、ヒナのもとにエサを運んでいるのでしょう。実際にヒナや巣を確認した訳ではありませんが、クロジが兵庫県内で繁殖しているのは確定的です。

 今回のことから、図鑑や専門書の内容を鵜呑(うの)みにするのではなく、些細(ささい)な事柄(ことがら)でも、自身で確認することの大切さを改めて感じたのでした。

文責 増田 克也



“自然のページ”のご意見ご感想をメールでお寄せください