思いやりの白い花


 毎週お届けしている、この“自然のページ”ですが、更新(こうしん)するにあたり、私の能力不足や時間的な制約などが相まって、「さて、次回はどうしよう・・・」ネタ探しに頭を抱(かか)えてしまうことがしょっちゅうです。

 そんなある日、「あんた、ミヤマカタバミがあるん、知っとんなるか?」これは渡(わた)りに船です。身を乗り出すように、いきなり話しかけてきたのは、席を隣(となり)にする施設管理員(しせつかんりいん)のIさんでした。
 施設管理員とは、南但馬自然学校を訪れるみなさんが、安全安心に活動できるよう、校内の草刈(か)りや除雪、また子どもたちが使用する教材の作製や修理など、多岐(たき)にわたる作業に従事する、言わば本校における、縁(えん)の下の力持ちです。

 そのIさんが、キャンプ場で作業中に小さな白い花を見つけ、名前を調べるとミヤマカタバミだと言うのです。しかし、私はその話をすぐには信じられませんでした。それというのも、これまで校内で見かけるのは、ムラサキカタバミばかりで、ミヤマカタバミなど皆無(かいむ)だったからです。この“自然のページ”でもミヤマカタバミを掲載(けいさい)したことがありましたが、その撮影地(さつえいち)は、本校より標高があるブナ林で、自然度の高い場所でしたので思いは尚更(なおさら)です。

 何はともあれ、早速、キャンプ場に足を運ぶことにしました。すると、沢(さわ)に沿った斜面(しゃめん)にぽつぽつと白いものが見て取れます。小走りに駆(か)け寄り確認すると、清らかな筋が入った5枚の花びらに、3枚が寄せ集まったハート型の葉っぱ・・・これは深山に咲(さ)く清楚(せいそ)な花、ミヤマカタバミに間違(まちが)いありません。

 この周辺には、数株が集まって花を開いているところや、常設テントのエリアにまで入り込(こ)み、テントデッキの下で咲いているものもありましたが、メタセコイヤの落ち葉が積もったこんな場所に自生するとは、なんとも情緒(じょうちょ)がありません。中には、苦しそうに落ち葉に埋(う)もれている花もあります。やはりミヤマカタバミは、自然豊かなブナ林に咲くのがよく似合います。

 とは言うものの、身近にミヤマカタバミが見られるのは嬉(うれ)しいことですので、来春も開花を期待してこの場所を注目したいと思います。最後に、優美に開いた花を正面からカメラに入れると、神秘的な花びらの純白と、ネタ探しに困惑(こんわく)する私を思いやり、情報を提供してくれた優しい気遣(きづか)いが、胸に染みてくるのでした。

文責 増田 克也



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