野鳥、数珠つなぎ


 昨夜の雨がわずかに残る、厚い雲に覆(おお)われた朝、田んぼの畦(あぜ)に植えられた境界木に留まるのは、12月の頃(ころ)からこの周辺に住みついた、ハヤブサの仲間で冬の渡(わた)り鳥、チョウゲンボウです。
 この日は、時に首をすくめたままで周囲を見回す他は、何をするでもなく静かに佇(たたず)んでいました。黒い斑点(はんてん)が並ぶ褐色(かっしょく)の背中が、今朝のどんよりとした空気と調和して、どこか日本画のようも見えます。

 田んぼの界隈(かいわい)を散策し、円山川へ行き着く頃には、天候も上向き、随分(ずいぶん)明るくなっていました。
 川の両岸に渡された電線から、河川敷(かせんしき)へにらみを利かせるノスリもこの冬からの住人です。その下に目をやれば、対岸の水際で食べ物探しに勤(いそ)しむダイサギが、川に頭を突(つ)っ込(こ)み大きな水しぶきを上げていました。

 遠くばかりを眺(なが)めていると、近くに留まるジョウビタキを見逃(みのが)すところでした。河川敷に棒を突き立てたように生えるオニグルミから、ピンと背筋を伸ばした独特の姿勢でふり返り、ポーズを決めています。
 昨冬は全国的に冬の渡り鳥が少なく、このジョウビタキも、ほとんど目にすることがありませんでした。この冬は例年のように数が戻(もど)り、“紋付(もんつ)き”と呼ばれる、背中に二つ並んだトレードマークの白斑(はくはん)も見る機会が増え、目を楽しませてくれます。

 色が乏(とぼ)しい季節にあって、赤い色の小鳥に出会えるとは、なんて素敵なことでしょう。次に登場したのは、上の写真にあるベニマシコでした。ベニマシコもやはり冬の渡り鳥です。寒い時季に、本州、四国、九州などで越冬(えっとう)し、暖かくなると、モンゴル北部や中国北部、サハリン、日本では北海道や本州北部の繁殖地(はんしょくち)に向けて旅立っていきます。

 名前にある“マシコ”とは漢字で「猿子」と記します。これは、ベニマシコの体色を、猿(さる)の顔や尻(しり)の赤色になぞらえたもので、「小鳥が猿の子」という訳ではありません。しかし、アップにした正面顔を眺めていると、くちばしや目の周辺にある、色が濃(こ)い部分が、何となくゴリラ風に見えるのは私だけでしょうか。

 ベニマシコは体勢を入れ替(か)え、こちらに背中を向けて草の穂(ほ)を何度かついばむと、あっけなく飛び去ってしまいました。「ちょっ、ちょっと待った!」思わず声を出ましたが・・・無理もありません、ベニマシコが飛び立った近くから、ヌッと顔をもたげたのはイタチです。

 予期せぬジョーカーの出現に、順調に続いていた、“野鳥数珠(やちょうじゅず)つなぎ”にピリオドを打たれた気分になり、この日の散策を打ち切り、そそくさと引き上げることにしました。

文責 増田 克也



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