6年目の再会


 ピンと張りつめた寒気に包まれたある日、夕闇(ゆうやみ)が迫(せま)る農道を通りかかると、右往左往と慌(あわ)てふためき、飛び回る鳥の群れがありました。一目見て、この辺りでよく見かけるムクドリだろうとそれほど気に留めませんでしたが、それにしてはシルエットや飛び方が幾分(いくぶん)異なります。

 群れは何度か旋回(せんかい)して、上の写真ある民家の庭木にとまりました。随分(ずいぶん)遠くでしたが目を凝(こ)らすと、ずんぐりとした丸い身体に、とんがり帽子(ぼうし)をかぶったように突(つ)き出た頭、そして尾羽(おばね)の先端(せんたん)に僅(わず)かに見て取れる赤色。これはムクドリなどではなく、本校周辺で6年ぶりに出会うヒレンジャクに間違(まちが)いありません。感激の再会もつかの間、辺りは間もなく暗くなりヒレンジャクも山の方向へ飛び去りました。

 ヒレンジャクは冬に見られる渡(わた)り鳥で、遠くロシアのウスリー地方から日本へやって来ます。渡来数(とらいすう)は年によってばらつきがありますが、本校周辺では全く見られない年がほとんどです。好物は果実で、山にあるヤドリギやノブドウの他にも、公園や民家に植えられた、クロガネモチ、ピラカンサ、タラヨウなどの実にも集まります。
 名前の由来は、“緋連雀(ひれんじゃく)”と漢字にすればよく解ります。頭文字の「緋」は赤という意味があり、尾羽の先端にある赤色を指しています。そして後の二文字「連雀」は、群れで行動をする習性からきているといわれており、電線にずらっと連なってとまる姿は由来の「連雀」そのものです。

 さて、久しぶりの再会を果たしてからというもの、この場所を通る度に注意を払(はら)うこと一週間余り、再び群れ飛ぶヒレンジャクを見付けることができました。
 ヒレンジャクたちは近くにある、大きな柿(かき)の木にパラパラと降り立つと、頭にあるトレードマークの羽を逆立て、互(たが)いに顔を見合わせるように辺りを警戒(けいかい)していましたが、何かに驚(おどろ)いたのか一斉(いっせい)に飛び立ち、周辺を2度3度と旋回し始めました。

 飛ぶ群れを、カメラで追いかけていると・・・おや!? ヒレンジャクの群れの中に、キレンジャクが3羽ほど混じっているではありませんか。ヒレンジャクとキレンジャクは、その姿形こそよく似ていますが、全くの別種です。確実で簡単な見分け方は、尾羽の先端の色が赤いものがヒレンジャク、そして黄色がキレンジャクです。キレンジャクの渡来は西日本に少なく、これまで本校周辺では見たことがありません。それだけに、なんだか宝くじにでも当たったような気持ちです。
 群れから外れた、1羽のキレンジャクがこちらに近づいたと思うと、柿の木に向かって一直線。堰(せき)を切ったように、実を突いてはほお張り、また突いてはほお張りを繰(く)り返します。その様子を見て安心したのか、ヒレンジャクも木に降り立ち、実を食べ始めました

 食事が一段落して、梢(こずえ)に佇(たたず)むヒレンジャクたち。何度見ても魅力的(みりょくてき)な姿をしています。柿の実がなくなれば、新たな食べ物を求めてどこかへ移動することでしょう。

 「お〜ぃ、6年ぶりのヒレンジャクと、初お目見えのキレンジャクたちよ。もう少しこの地に留まってくれないか」

 辺には、枝もたわわに実る、おいしそうなクロガネモチやタラヨウがある民家をいくつも知っているので、彼らににそっと耳打ちしてやりたい気分です。

文責 増田 克也



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