サンショウウオの行く末は


 みなさんは“サンショウウオ”と言えば、どんなものを想像しますか。おそらく、国の特別天然記念物で、最大級のものは体長が150センチにも達する、オオサンショウウオを思い浮(う)かべる方が多いのではないでしょうか。

 ところが、図鑑(ずかん)を開いてみると、日本にはオオサンショウウオの他にも、20種類弱のサンショウウオが生息しているのです。トウキョウ(東京)サンショウウオ、オキ(隠岐)サンショウウオ、ハコネ(箱根)サンショウウオ、トウホク(東北)サンショウウオなど、名前に地名が入ったものが多く、どれもが体長20センチ以下の小さなサンショウウオです。
 今回の自然のページは、その中でも、本州中央部の標高200〜1000メートル付近の山地に広く生息する、ヒダ(飛騨)サンショウウオを取り上げます。

 それでは、上の写真をご覧ください。これは、本校の東に位置する、標高1000メートル級の山で、以前、私の友人が見付けた2匹(ひき)のうちの1匹(ぴき)です。思わず目を引く、黒地に金粉を散りばめたような、美しい模様が特徴(とくちょう)で、決してオオサンショウウオと見間違(みまちが)うことはありません。この個体は立派な成体ですが、大きさはよく見かけるニホンイモリ程度の小さなサンショウウオです。

 もう1匹をプラスチックのケースに入れて観察すると、案外ずんぐりしているのがよくわかります。とくに下腹部がぷっくりと膨(ふく)らんでいるのは、卵でも持っているのでしょうか。ケースをよじ登り始めたヒダサンショウウオにカメラ向けると、飛び出した目や短い指が愛らしく、また、口を閉じたラインが笑みを浮かべているようで愛敬(あいきょう)たっぷりです。

 しかし、このチャーミングなヒダサンショウウオが見つかった場所が気になります。2匹は林道脇(りんどうわき)に埋設(まいせつ)された、U字溝(じこう)の中で発見されました。友人によると、普段(ふだん)は滅多(めった)に出会えないヒダサンショウウオに、この場に出向く度に目にすると言うのです。つまり、これらのヒダサンショウウオは、溝(みぞ)に落ちて這(は)い上がれずにいるのではないでしょうか。

 この山は小学生の頃(ころ)から、年に数回登山をして親しんだ山です。以前、林道のすぐ近くの谷側には、細い沢(さわ)があり、そこにできた洗面器ほどのわずかな淀(よど)みが、山頂へ向かう登山道で最後の水場だったため、子どもたちは競って喉(のど)を潤(うるお)したものでした。その淀みには小さなサンショウウオの幼生がいて、当時はオオサンショウウオの子どもだと思い込(こ)んでいましたが、今になって考えると、それこそヒダサンショウウオに間違(まちが)いないでしょう。

 現在、この水場はには治山ダムが作られ、サンショウウオの幼生が見られた淀みも消えてしまいました。林道を含(ふく)めたこの辺り一帯が、ヒダサンショウウオの生息地で産卵場所であった可能性が大きいと思われます。全身に金粉をまとった、魅力的(みりょくてき)な表情を持つ、小さなサンショウウオの行く末が気がかりです。

文責 増田 克也 



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