緑のトトロは・・


 木の葉が落ちた林を歩くと、上の写真のように、枝からプラ〜ンとぶら下がる、色鮮(いろあざ)やかなライムグリーンをしたものを見かけることがあります。これは、ウスタビガという野性の蚕(カイコ)が作った繭(まゆ)ですが、中は空っぽでもぬけの殻(から)になっています。
 この繭が作られたのは、緑がまぶしい初夏の頃(ころ)です。他の昆虫(こんちゅう)が活発に活動するこの時季に繭の中で過ごし、秋の深まる季節に成虫になる、少し変わった生活史をもっているのがウスタビガです。

 ウスタビガは、その繭の形がカマスに似ているところから、別名“山カマス”と呼ばれます。カマスとは、ワラで作ったムシロを袋状(ふくろじょう)に縫(ぬ)い合わせた入れ物で、古くには肥料や収穫(しゅうかく)した穀物(こくもつ)などの保管、運搬(うんぱん)に用いました。
 カマスなどには、よほど縁がない私は、この繭を初めて見た時から、アニメ映画「となりのトトロ」に登場するトトロとオーバーラップして仕方ありません。試しに顔を描(か)き込(こ)むと、ほらトトロにそっくりでしょ? それ以来、子どもたちと山へ出かけたときには、ウスタビガの繭を“緑のトトロ”と紹介(しょうかい)することにしています。

 先日、冷たい雨が降り始め、薄暗(うすぐら)くなった午後4時半過ぎのこと、事務室の窓から何気なく外を見ると、窓の網戸(あみど)に奇妙(きみょう)な物がくっついています。どうやら蛾(ガ)のようですが、網戸越(あみどご)しでははっきりしません。外へ出て確認すると、そこには事務室の中をのぞき込むように、網戸につかまったウスタビガの姿がありました。しかも交尾(こうび)の真っ最中です。遠くから見て奇妙に映ったのは、オスとメスが連なっていたためでした。

 上にいる黄土色の大きいものがメス。そして、小ぶりなこげ茶色の翅(はね)をたたみ、メスの下に潜(もぐ)り込んでいるのがオスです。どちらも翅にある、着物の紋付(もんつ)きのような丸い模様が特徴(とくちょう)です。
 その後、ウスタビガのペアは、何度か吹(ふ)き付けた強い風にあおられ、ハラッと地面へ落ちてきました。オスとメスを改めて見ると、色や大きさにかなりの違(ちが)いがあることがわかります。
 雨が激しくなってきたので、ペアを軒先(のきさき)に移動させて、成り行きを見守ることにしました。翌朝、ウスタビガを置いた周辺を探しましたが、姿はありません。きっと、適当な場所を見付けて無事に産卵したことでしょう。

 季節は間もなく冬になるため、活動時間が限られるウスタビガは、羽化してすぐにパートナーを見付け交尾と産卵を行います。枝に付いたいくつかの繭を観察すると、羽化した直後に、早速、交尾し産卵したと思われる、卵を産み付けられた繭を見かけることがあります。
 
 成虫になったウスタビガは数日の命。子孫を残すことに専念し、あわただしく一生を終えたその後も、緑のトトロは色あせることなく、彼(かれ)らの営みを記録したカプセルのように、枝先で揺(ゆ)れています。

文責 増田 克也



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