種採りは名人芸


 奥山(おくやま)へ続く林道を進むと、大きくせり出したタケニグサの茂(しげ)みに、出入りを繰(く)り返す小鳥がいました。茂みの中で何やらごそごそしてから、外へ飛び出し、2〜3分後には再び茂みへもどってきます。

 「いったい何者だ?」腰(こし)を低くし、見通せる場所を探して覗(のぞ)くと、そこには、せかせかと動き回るコガラの姿がありました。コガラは森林性の小鳥で、普段(ふだん)は低山に生息(せいそく)していますが、秋から冬にかけては本校の生活棟(せいかつとう)周辺でも目にします。よく見かけるシジュウカラの仲間で、ベレー帽(ぼう)をかぶったような黒い頭と、喉(のど)の蝶(ちょう)ネクタイ模様が特徴(とくちょう)です。体長は約12センチ、スズメよりずっと小さく、日本の野鳥の中でも最小の部類ですから、そのすばしっこさは折り紙付きです。

 それでは、コガラの様子を観察してみましょう。タケニグサの茂みにやって来たコガラは、いきなり右足で枝を掴(つか)むと、くちばしで果実をもぎ取り、どこかへ飛び出して行きます。次は、思わせぶりに首を傾(かし)げると、半ば強引に枝をたぐり寄せ果実を採り、すぐに飛んでいきます。今度は、果実の柄(え)をくちばしでくわえて、後ろに体重をかけ踏(ふ)ん張ります。すると、おっと危ない!勢い余ってずり落ちそうになりました。しかし、そこは敏捷(びんしょう)なコガラのこと、サッと体勢を立て直し飛び出します。次は圧巻でした。直接枝にぶら下がり、果実の柄をくわえると、逆さの状態で渾身(こんしん)の力を込(こ)めて引っ張ります
 このコガラの写真が、コマ送りのように見えるのは、1秒間に8コマのスピードで撮影(さつえい)しているためですが、それでも全ての行動を写し撮(と)るこはできません。このことから、コガラの身のこなしが、いかに早いかを感じてもらえると思います。

 コガラのお目当ては、果実の中にある種子です。この時季、タケニグサはたわわに実を付け、これを陽に透(す)かして見ると3〜8個の種子が見て取れます。コガラは、その中でも表面に粉を吹(ふ)いたように変色し、よく熟した果実を選んで採っています。

 さあ、こうなると食べるところを見てみたいものです。これまで果実を採るとすぐに飛び去っていましたが、二度だけ茂みの中で食事シーンを見せてくれましたのでご覧ください。
 まずは、コガラの足元に注目してください。採った果実を、両足でしっかり押(お)さえつけています。上側の皮をめくり上げて、くちばしを差し込み、器用に種子をくわえます。
 二度目も、足で果実を押さえ込み、今度は皮を全部剥(は)ぎ取ると最後の一粒(ひとつぶ)をくわえ込むが早いか否か、パアッと飛び立ち姿を消しました。素早く果実の皮を剥いで、砂粒ほどの種子を寸分狂(くる)わずついばむ、その俊敏(びんしょう)で正確な動きには舌を巻きます。人がこれに挑戦(ちょうせん)しようと、ピンセットを使っていくら頑張(がんば)っても、コガラの名人芸には全く歯が立たないでしょう。

 コガラにシャッターを切りながら、ふと気になることが頭を過ぎりました。このタケニグサはアルカロイドを含み、あの何でも食べてしまうニホンジカさえも敬遠する毒草です。「はたしてコガラは大丈夫(だいじょうぶ)なのだろうか・・・?」そんな私の心配をよそに、コガラは何食わぬ顔でせっせと種採りを続けるのでした。

文責 増田 克也



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