産卵は尻探り

 本校のバックグラウンド、朝来山の麓(ふもと)には、ひっそりとした佇(たたず)まいを見せる、雨乃宮(あめのみや)の池と呼ばれる小さな池があります。周りを木々で囲まれた池の傍(かたわ)らには雨の神様が奉(まつ)られ、その昔、渇水(かっすい)の年には、村人が集まり雨乞(あまご)いの神事が行われたそうです。池の中央には、じゅうたんを広げたようにヒルムシロミクリといった水生植物の葉が茂(しげ)る、それはそれは神秘的な池です。

 そのヒルムシロの葉に、1頭のトンボがとまっていました。ただ翅(はね)を休めているのではなく、腹部を大きく下に曲げて先端(せんたん)を水中に突(つ)っ込(こ)み産卵をしています

 このトンボの名前は、オオルリボシヤンマと言います。ヤンマ科の大きなトンボで、目測では、体長10センチほどでしょうか、腹部の側面にある、美しい瑠璃色(るりいろ)の斑紋(はんもん)が名前の由来になっています。
 オオルリボシヤンマにとって、周囲を木々で囲まれ、水面にヒルムシロの葉が広がる雨乃宮の池は、生息に適した環境(かんきょう)なのでしょう、6月から11月頃(ごろ)までは、毎日のように見られる、言わばこの池の常連さんです。

 急上昇(きゅうじょうしょう)に急降下(きゅうこうか)、滑空(かっくう)したかと思えば急停止。その飛行能力は、他の昆虫(こんちゅう)と競べてもズバ抜(ぬ)けて優れています。それ故(ゆえ)に、普段(ふだん)は目で追うのも難しいほど素早いオオルリボシヤンマですが、産卵の時ばかりは適当な場所を探しながらゆっくり飛び、ホバリングをして葉に下りるので、観察や写真を撮(と)るにも好都合です。

 ヒルムシロの葉にとまると、まるで腹部の先端に目が付いているかのように、手探りならぬ尻探(しりさぐ)りで周辺を検索(けんさく)し、茎(くき)や葉の裏に産卵をします。時には、より深い所に産み付けようと、胸まで水に浸(つ)かりながら行う産卵は、そまま水没(すいぼつ)してしまわないかと、見ているこちらをハラハラさせます。

 それでは下の画像をクリックして、オオルリボシヤンマがヒルムシロの葉の上で、腹部の先端を器用に動かし産卵場所を物色する様子を、動画でご覧(らん)ください。 
 
 みなさんの近くにも、周囲を木々に覆(おお)われ、水草が水面に広がるトンボの池があれば、そっと覗(のぞ)いてみてください。オオルリボシヤンマが産卵しているかも知れませんよ。

文責 増田 克也






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