若鳥の夏

 このところの猛烈(もうれつ)な暑さにうんざりし、本校の朝来山に涼(りょう)を求めて登りました。しかし、標高750メートル程度の山では涼(すず)しいはずもなく、登るにつれ、拭(ぬぐ)っても拭っても汗(あせ)が吹(ふ)き出し、身体はオーバーヒート寸前です。
 堪(たま)りかねて木陰(こかげ)に腰(こし)を下ろすと、春から初夏にかけては、心地よい小鳥のさえずりが癒(いや)してくれましたが、今、あらゆる場所から聞こえて来るのは、ニイニイゼミにアブラゼミ、そしてヒグラシと、夏の朝来山はセミたちに占領(せんりょう)されたかのようです。

 暑苦しいセミの声で、虚(うつ)ろになった目にぼんやりと映ったのは、上の写真にある、横枝でピンと身体を伸(の)ばしてとまるスマートなサンショウクイでした。サンショウクイと言えば、タキシードを着たような、白黒の模様が特徴(とくちょう)ですが、この個体は色味がはっきりしていません。これは、春に巣立ちをしたばかりの若鳥で、表情もどこかあどけなく見えます。
 自らがとまっている横枝を、ツンと一突(ひとつ)きした、サンショウクイのくちばしには、何かうごめくものがありました。拡大してみると、そこには小さなシャクリトリムシを捕(と)らえています。

 サンショウクイという名前の由来は「ヒリリ、ヒリリ」と聞こえる鳴き声から、「きっとあの鳥は、ピリッと辛(から)い山椒(さんしょう)を食べたのだろう」と想像し“山椒喰(さんしょうくい)”と名付けられたそうですが、元より山椒は食べず、やはり虫などを好むようです。
 捕らえた虫を素早く食べると、サッと飛び出し葉陰(はかげ)に移動しましたが、8月の木洩(こも)れ日は容赦(ようしゃ)なくサンショウクイの背中をジリジリと焦(こ)がしていました

 先に進むと、焼きつきそうなほど熱せられた、登山道にうずくまるものがありました。目を凝(こ)らすと、小鳥が地面に伏(ふ)せています。しかも暑そうに口を開け、喘(あえ)いでいるではありませんか。もっとよく見ようと、半歩ほど近づいた途端(とたん)に、飛んでいってしまいました

 その内に戻(もど)って来るはずだと思い、少し待ってみることにしました。すると約30分後、案の定、ほぼ同じ場所に現れて、再び地面に伏せると、また暑そうに口を半開きにしています。
 以前、ツバメがアスファルト道路で腹ばいになり、同じような行動をとっていたのを思い出しました。その時は「寄生虫を追い払(はら)うためだろう」と勝手に解釈(かいしゃく)しましたが、是非(ぜひ)、真相が知りたいところです。

 10分も経過したでしょうか、ようやく地面から近くの枝に飛び移りました。改めて全身を見ると、思いがけずスマートです。ここで疑問が生まれました。「この鳥はいったい何だろう?」頭をひねりましたが、色といい模様といい心当たりがなく、名前が思い浮(う)かびません。あれやこれやと考えている間に、くるっと正面を向きました。「なるほど!」この身体を起こした姿勢からやっと察しが付きました。この鳥は、おそらくオオルリのメス、こちらも今年生まれの若鳥です。若鳥は成鳥と色や模様が異なることが多いため、見覚えのない姿に戸惑(とまど)いました。
 その後、すぐ近くにやって来て、口を半開きにしたかと思うと、瞬(またた)く間に飛び出し、離(はな)れた横枝で素早く虫を捕らえていました

 サンショウクイやオオルリは渡(わた)り鳥です。今年、日本で生まれた彼(かれ)らも、秋には越冬地(えっとうち)の東南アジアなどへ旅立ちます。その日が来るまで、本校の朝来山で鋭気(えいき)を養い、来春には立派(りっぱ)に成長した姿を見せてほしいものです。

文責 増田 克也



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