巣立ち

 このところ連続してお伝えしている、アオゲラの観察に向かいました。山道を移動中、生き物の気配に振(ふ)り返れば、夏毛のテンがスタコラと駆(か)けていきます。幸先(さいさき)の良い出合に、何となく予感めいたものを感じながら観察場所へ到着(とうちゃく)しました。

 「ジジジジ・・・」ヒナの声が聞こえます。前回確認したヒナの成長ぶりからすると、既(すで)に巣立っていても不思議ではありませんでしたが、まだ巣に留(とど)まっているようです。しかしながら、時折、巣穴から見え隠(かく)れするヒナの顔つきは、今にでも外へ飛び出してきそうなぼど発育していました。

 それは、何の前触(まえぶ)れもなく、余りにも突然(とつぜん)に、そして呆気(あっけ)なく起こりました。親から給餌(きゅうじ)を受けて、暫(しばら)く時間が経過した時です。何やら黒いものが地面に落ちたように見えました。目を凝(こ)らすと、なんとそれはヒナでした。そうです、アオゲラのヒナが巣立ちをしたのです。

 巣立ったヒナは、先ほどまで居た巣穴を盛(さか)んに見上げていたかと思うと、橋のように架(か)かった朽(く)ち木を頼(たよ)りに営巣木を登り始めました。巣立ちをして間無しというものの、しっかりとした足取りで、時に翼(つばさ)を羽ばたかせバランスを取りながら登っていきます。

 途中(とちゅう)の木コブまでたどり着くと、急に身体の向きを変えて飛び出しました。おそらく周辺にある木の幹に飛び移ろうとしたのでしょうが、あえなく地面に不時着。当の本人も驚(おどろ)いたように目を白黒させています。
 その顔を拡大すると、目の下には針(はり)のような突起(とっき)が見て取れます。これは筆毛(ひつもう)と呼ばれるもので、ストロー状になっており、中には羽が入っています。これから成長するにつれて、徐々(じょじょ)に赤い羽が生えそろうのでしょう。

 その後、どうにかサクラの木にたどり着き、一歩一歩、お辞儀(じぎ)をするように幹をせり上がっていきました。ふと振り返ったその表情はどことなく不安げに見えましたが、正面に向き直すと、今にでも木を突(つつ)きそうな凛々(りり)しい若アオゲラです。次に、幹の裏側(うらがわ)に回り込(こ)みながら、ずんずん上へ登り行方知れずになりました。

 2日後、再び現場を訪れると、辺りはひっそり静まりかえっています。どうやら、全てのヒナが巣立った様子です。そこで斜面(しゃめん)を登り営巣木を確認すると、やはり、もぬけの殻(から)になっていました。巣穴の入口は、直径6センチほどの穴がきれいに空けられています。そしてその下には、大工道具のノミでも使ったかのような木くずが溜(た)まっていました

 周辺では、春先から続いた鳥たちの季節が、アオゲラの巣立ちをもって終わったことを告げるかのように、セミの声がいっそう騒(さわ)がしく響(ひび)いていました。

文責 増田 克也



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