生活棟の周りでは


 子どもたちが寝泊(ねと)まりする、生活棟(せいかつとう)の小径(こみち)に、何やら白い米粒(こめつぶ)のようなものがたくさん落ちています。いくつかを指で摘(つま)んで拾い上げ、手のひらに置き顔を近づけると、それはネジキの花でした。

 ネジキは名前の通り、幹がねじれている他は、これと言って特徴(とくちょう)がなく、普段(ふだん)はそれほど気に留めることがない、どこにでもある平凡(へいぼん)な木ですが、連なって下向きに咲(さ)くスズランに似た花は愛らしく、思わず辺りを探してしまいます。

 見上げると、たくさん花を付けているネジキが頭上にあり、その周辺にいくつかあるネジキも今が花の盛りです。
 ネジキを丹念(たんねん)に見ていくと、未だに昨年の丸い果実を付けたもの・・・おや、この枝には葉がありません。「これはおそらく・・・」恐(おそ)る恐る見回すと、やっぱりいました。数匹(すうひき)の毛虫が一心に葉をむさぼっています。白い髭(ひげ)を伸(の)ばしたこの毛虫は、キバラケンモンという蛾(が)の幼虫です。

 あまり得意ではない毛虫に思わず目を伏(ふ)せた地面には、無数の実生(みしょう)が頭をもたげています。この機会に腰(こし)をかがめて見ていくと、秋には黄色く色づくカエデ科のウリカエデ。この辺りの方言では、ホウソと呼ばれる里山の代表樹種、コナラ。当地に少ないカシワの代用として、葉で餅(もち)を包(くる)んだサルトリイバラ。成長すると、時には高さ30メートルにも達する大木になるケヤキ。トゲトゲの葉で武装するモクセイ科の常緑樹、ヒイラギなど、植木鉢(うえきばち)に取り上げれば、そのままミニ盆栽(ぼんさい)になりそうなチャーミングな実生たちがひっそりと息づいていました。

 実生をのぞき込(こ)み、かがめていた腰を伸ばせば、目の前にある幹に、白地に黒の水玉をあしらった1匹の蛾が貼(は)り付いています。ネジキの葉を食べていた毛虫の成虫かと思いましたが、これはヒョウモンエダシャクという別種でした。

 毎日のように行き来する、生活棟の小径から一歩足を踏(ふ)み込めば、わずかな時間で様々なものが観察できます。本校を訪れた子どもたちには、「今日は自然観察をするぞ!」などと身構えることなく、自然学校の期間中だけでも気楽に身近な自然とふれあってほしいものです。

文責 増田 克也



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