亜麻色のドレスは限定色

 普段、通い慣れた道にさしかかると、田んぼの中にぽつんと佇(たたず)む1羽のサギらしき鳥が目に付きました。見返すとよくいる白いサギではなく、頭から胸にかけて色が付いているではありませんか。
 驚(おどろ)かせないように、田んぼの畦道(あぜみち)をぐるっと遠巻きに回り込み接近すると、いましたいました。逆立てた頭と胸の羽を朝日に透(す)かせているのは、春に南の国から繁殖(はんしょく)のために日本などへ渡るサギの仲間、アマサギです。名前にあるように亜麻色(あまいろ)の羽が特徴(とくちょう)で、時に田んぼを耕すトラクターの後追いをして食べ物を捕(と)る姿を見かけることがあります。

 羽を膨(ふく)らませてリラックスしていたアマサギが、突然(とつぜん)、片側の羽を広げて伸(の)びをひとつ。先ほどまで逆立てていた羽をすぼめた姿は、別種のようにスマートです。次に全身の羽繕(はづくろ)いを終えると、程なく食べ物探しを始めました。

 抜(ぬ)き足差し足・・・ゆっくり足を運びながら、田んぼの草を一本ずつかき分けるかのように鋭(するど)い視線を配ります。次の瞬間(しゅんかん)、目にもとまらぬ早さで繰(く)り出したくちばしの先には、アマガエルを捕らえています。アマガエルはなんとか逃(のが)れようと身体を膨らませますが、抵抗もむなしくアマサギの喉(のど)を通過していきました。
 今度は、草の中にくちばしを突(つ)っ込み、何やらもぞもぞと探っています。頭を上げると小さなものをくわえていました。写真を拡大してみると、バッタのような昆虫(こんちゅう)を捕らえています。アマサギは他のサギと同様に、くちばしにかなう動物性のものなら何でも食べてしまうようです。

 ひとたび、食べ物を捕り終えると、一旦、畦(あぜ)に戻(もど)り休憩(きゅうけい)です。その時、田んぼを1枚隔(へだ)てた農道を散歩する人が、スタスタと早足で近づいて来ました。しかし、そんなことはお構いなし。通りすがりの人など全く気にしない様子に、近年分布を広げてきたアマサギの逞(たくま)しさを感じました。
 その後も、身体に片足を引き込み随分(ずいぶん)落ち着いています。この時、改めて見るアマサギの正面顔は、歌舞伎(がぶき)の人気演目で長い髪(かみ)の毛を振(ふ)り回す「連獅子(れんじし)」に登場する獅子(しし)にそっくりでした。

 ユニークな仕草と目を引く色で見る者を楽しませてくれるアマサギですが、繁殖期が終わると、よく見かけるサギと同じような白い姿に戻ってしまいます。美しい亜麻色の衣装はこの季節限定、繁殖のために着飾(きかざ)る勝負ドレス

                背中にも美しいベールを着けている

という訳です。さあ、今がチャンスです。みなさんも、田んぼに亜麻色のアマサギを探してみてはいかがでしょうか。

文責 増田 克也



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