山笑う

 春の季語“山笑う”。俳句を詠(よ)まれる方ならば、よくご存じでしょうが、一般には聞き慣れない言葉です。でも、言葉の意味は何となく想像が付きますね。「山泣く」でなく笑うのですから、それだけでもなんだか楽しげです。

 “山笑う”を広辞苑(こうじえん)で引くと「春の芽吹(めぶ)きはじめたはなやかな山の形容」とあります。本校周辺の山は、今正に、微笑(ほほえ)みをたたえているかの様で淡(あわ)い色で包まれています。
 では、この笑いの源はどんなものでしょう。そこで、木々の芽吹きを訪ねて、本校の朝来山に足を踏(ふ)み入れました。

 真っ先に目に付くのは、やはり赤い色です。ヤマザクラがみずみずしい柔(やわ)らかな葉を出していました。若い葉は赤味が強いので大変よく目立ちます。まだ肝心(かんじん)な花がありませんが、つぼみは大きく膨(ふく)らみ、すぐにでも開きそうな雰囲気(ふんいき)です。

 和菓子(わがし)に添(そ)える爪楊枝(つまようじ)の材料にされるクロモジが、陽に透(す)けてキラキラと輝(かがや)いています。花は垂れ下がり、葉は上向きの様子が、バドミントンのシャトルにそっくりです。

 クロモジがシャトルなら、こちらは、日本髪(にほんがみ)によく似合いそうなかんざし風のキブシです。暗いスギ林をバックにすると、明かりが灯ったシャンデリアのようでもあります。

 赤い冬芽(ふゆめ)の殻(から)を2つに割り、大きくせり出しているのは、ウリハダカエデの新芽(しんめ)です。この芽(め)をひとつひとつ丹念(たんねん)に見ていくと、少し開きかけているものがあり、中から花芽をのぞかせていました。

 その他には、昔、開花を目安に田植えを始めたといわれるタニウツギが、ようやく葉を広げ始め、初夏には葉の長さが約40センチに達するホオノキも、どうにか一皮むけたところです。

 朝来山の様子は、にっこり笑みをたたえたところから、くすくすっと含(ふく)み笑いへと移行していく途中のようです。そして、後一月もすれば、木々の若葉は萌(も)え、花は咲き誇(ほこ)り、山はお腹を抱て大爆笑(だいばくしょう)することでしょう。

文責 増田 克也



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