春を探して

 4月に入ってからも何度か冷え込む日があり、付近の山はその度に白くなって、身が縮こまる思いをしましたが、このところは随分(ずいぶん)春めいてきました。上の写真にある、川土手に植えられた桜のつぼみは赤味が増し、その先の農道を犬と散歩する人の足取りもどこか軽やかに見えます。待望した桜の花は、今週末にはほころび始めることでしょう。

 そんな、やわらかな日差しが注ぐ朝に、本校周辺の田んぼを散策してみることにしました。
 するとこの時季、田んぼの中は小さな白い花を付けた、タネツケバナでいっぱいです。その昔、この花の開花を合図に種もみを水に漬(つ)け、苗代(なわしろ)の準備を始めたといわれるだけあって、今が盛りと咲き誇(ほこ)っています。
 そのタネツケバナをすき込むように、いくつかの田んぼでは、田起こしが行われています。土が掘(ほ)り起こされると、早速、どこからかアオサギがやって来て、トラクターの後を追い食べ物を求めていました。

 この冬、ほとんど目にすることがなかった、冬の渡り鳥のツグミが、北へ旅立つ今頃(いまごろ)になって、ようやく田んぼで見かけるようになりました。そっと近づくと、中には少し逃(に)げ腰(ごし)になりながらも、画面からはみ出してしまうほどの接近を許してくれる、サービス精神旺盛(せいしんおうせい)な個体もいます。背中をピンと伸(の)ばし、羽をだらりと下げた独特のポーズを久しぶりに見た思いがしました。

 いくらか水が入れられた田んぼでは、小さなチドリの仲間、コチドリが食べ物を探してちょこまかと動き回ると、その脇(わき)でタヒバリが大口を開け、足で喉(のど)を掻(か)いています。先ほどから、固まったように動かないのは、長いくちばしを持つタシギです。その上空をカラスが何度か飛ぶと、身体を細くして、ついにはうずくまってしまいました

 この日、休耕田の枯(か)れ草にとまるノビタキに出会いました。ノビタキは春に東南アジアなどの南の国からやって来て、本校の周辺を経由し、本州中部より北の繁殖地(はんしょくち)を目指して移動する渡り鳥です。これから約半月の間、次々に当地を通過していくのでしばらく目が離(はな)せません。

 春の使者、ノビタキが訪れた休耕田の足元には、火消しの“まとい”を縮小したようなヒメオドリコソウが群生して朝日を浴びていましたが、未だ陽が届かない場所にある、白い結晶(けっしょう)を付けたヨモギスイバの葉に、冬の残片を見たような気がしました。

文責 増田 克也



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