アイサってなにさ?

 野鳥を観察するようになって間無しの頃(ころ)、見るもの全てが珍(めずら)しく新鮮(しんせん)でした。そんなある日、近所の川に向かうと、これまで見たこともない、白と黒に塗(ぬ)り分けられた、スマートな身体の一風変った水鳥が目に付きました。早速、図鑑を引くと、その特徴的(とくちょうてき)な姿から、すぐに「カワアイサ」だとわかりました。

 しかし、何んだかややこしく、聞き慣(な)れない名前です。マガモやカルガモなど、名前の最後に“カモ”が付くと、カモの仲間だと察しがつくのですが、「カワアイサ」とは何者でしょう。改めて図鑑を見直すと“カモ目カモ科”とあるので、どうやらカモの仲間のようです。

 図鑑にあるカワアイサと同じページには、「ウミアイサ」という水鳥も載(の)っていました。そこから想像すると、ウミアイサは、海アイサ。そしてカワアイサは、川アイサなのでしょう。それでは“アイサ”とはいったい・・・?

 すぐ頭に浮(う)かんだのは、映画のワンシーンなどで、海賊(かいぞく)が「アイアイサー!」と大声を張り上げる姿です。しかし、そんなことが名前の由来になっているはずはありません。数日後、あれこれ調べると、カワアイサのカワは予想したとおり“川”でした。そしてアイサには“秋沙”という文字が当てられていました。

 この“秋沙”という文字が示すように、読みは「アキサ」が転じて「アイサ」になったとのことです。由来は諸説ありますが、この鳥は秋が去った後、つまり寒くなると、北国から渡ってくることから、アイサと呼ばれるようになったという説が有力なようです。

 名前の由来が判明して一件落着ですが、私の中では、カワアイサを初めて見たあの日に、ふと思い浮かんだ「アイアイサー」の印象が大変強く、すっかり頭に蔓延(はびこ)ってしまいました。それは、あれから何年も経った今でも、「あっ、アイアイサーがいる」などと、人前でうっかり口走り、恥(は)ずかしい思いをしないように気をつけているほどです。

 この日も、近くの円山川を覗(のぞ)くと、アイアイサ・・・ではなく、カワアイサが浮かんでいました。頭の黒いものがオスで、茶色がメスです。
 ゆったりとした時間が流れていたその時、何かに驚(おどろ)いたのか一斉(いっせい)に水面を蹴(け)り助走を始めました。

 急いでカメラを掴(つか)み、1羽に狙(ねら)いを定め、運を天に任せて、「アイアイサー!」と唱えてシャッターを切ると、どうしたことでしょう。これは奇跡(きせき)か幻(まぼろし)か、普段は飛ぶ鳥など滅多(めった)に撮られないものですが、カワアイサが水面から飛び上がり、上昇(じょうしょう)する姿をファイダーに捉(とら)えることができたではありませか。

 その後、撮った画像をカメラの液晶(えきしょう)モニターで確認しながら「アイアイサー!と呪文(じゅもん)を唱えると、色々な場面で御利益(ごりやく)があるかもしれない」と、妙(みょう)に調子づく私でした。

文責 増田 克也



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