ご馳走は格子の中に

 この冬は、雪がよく降ります。そして、よく積もります。しかし、そこは南但馬地方のこと、いい天気が二日三日続いたり、雨が降ったりすると、あっと言う間に消えてしまい、根雪になるようなことはまずありません。

 山際にもいくらか日が差し込み、雪がふやけ始めたある日、薮(やぶ)の奥にとまる1羽のアオジを見つけました。アオジはスズメより少し大きい程度の小鳥で、当地では冬季に見られる渡り鳥です。性質は大変用心深く、人の気配などがするとすぐに隠(かく)れてしまいます。
 この時季は、主に植物の種子などを地面で拾って食べていることが多く、意識して見なければ目に付くことが少ない、どちらかというと地味な存在の小鳥です。

 薮の中で落ち着きなく左右を見回していたアオジが、パッと飛び立ち行き着いた先は、上の写真にある格子状の針金です。何度か首を傾(かし)げ、しばらく考えるような素振(そぶ)りを見せると、格子をくぐり地面へ下りて行きました。

 そこには、なんと食べ物がいっぱい!山と積まれたご馳走(ちそう)をこちらにお尻(しり)を向けて、一心についばんでいます。すると、この様子を周りで見ていたのでしょう。どこからともなく、1羽、また1羽とアオジが集まり、ついには4羽が集う食事会が始まりました。

 では、この食事会の会場を明かしましょう。実は、害獣(がいじゅう)を捕獲(ほかく)するために設置された檻(おり)の中なのです。そこには、シカやイノシシといった動物をおびき寄せるために、餌(えさ)として米ぬかが入れられており、アオジたちはこれをちゃっかり失敬しているのです。

 それにしても、いい餌場を見つけたものです。米ぬかの上にある格子には、覆(おお)いが掛(か)けてあるため、少々の雪では埋(う)もれてしまうことはありません。その上、米ぬかは、これまで口にしたことがない大ご馳走です。しかも、どんどん食べて量が少なくなれば、そのうち人間が補充(ほじゅう)してくれるでしょう。また、万が一、何かの拍子(ひょうし)に扉(とびら)が閉まっても、格子の目をくぐり抜ければよいだけで、閉じ込められることもありません。。
 冬の間、周辺にいるアオジたちは、食べ物に苦労することなく待望の春を迎(むか)えることでしょう。

 この檻にはリンゴなどの果物も入れてあるため、ヒヨドリやテンなど、他の動物も利用するのではないでしょうか。しばらく観察を続けると面白い結果が得られるかも知れませんね。

文責 増田 克也



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