雪の朝に

 さらさらのパウダースノーが積もった朝、本校のケアキもうっすらと雪化粧(ゆきげしょう)をしています。この日、校内にいくつも植えられた、ケアキの梢(こずえ)から梢へ飛び回る、小鳥の群れがありました。
 群れの行き先を目で追うと「ザザァー」、羽音をたて急旋回(きゅうせんかい)。落ちるように本館の脇(わき)にあるイロハモミジの木へ下りてきました。

 室内のカーテンに隙間(すきま)を作り、こっそり窓ガラス越(ご)しに見上げると、白い腹と赤茶色の胸をこちらに向けて、30羽ほどのアトリが一心に種をついばんでいます。
 しかし、ここからは、枝に積もった雪の陰(かげ)になり見通しが利きません。そこで、3階の渡り廊下(ろうか)へ駆(か)け上がりアトリたちを見下ろすことにしました。

 一歩踏(ふ)み出しては、間合いを取り、そしてまた一歩。そっとアトリに接近します。雪の日、野鳥たちは餌場(えさば)が制限され、食べ物に集中する余り、普段より近づけることがあります。じわりじわり、約15メートルまで間合いを詰(つ)めると、さあ、観察開始です。

 まず、梢にとまる数羽に目をやりました。個体によって、いくらか色合いに違(ちが)いがあります。真ん中にいる、全体に色が薄(うす)く頭がグレーなものはメス。その右は、胸の茶色が濃(こ)く、頭が黒い夏羽に変わりつつあるオスです。オスは春に向けて頭の色が、より一層黒く変化し繁殖(はんしょく)の準備を整えます。

 アトリたちは、プロペラ状の羽が付いた種を次々に食べていきます。枝先の種は、ぐ〜んと身体を伸(の)ばしてついばみ、更(さら)に遠くのものは、逆さまにぶら下がり羽でバランスを取りながら、ロープを伝うように枝をたどり、素早く食いつきます
 下の枝にいたアトリが、積もった雪に頭を突っ込んでいます。種を探しているのだろうと見ていると、雪そのものを食べ始めました。水分の補給も手っ取り早く雪でまかなっているようですね。
 種を食べ終え体を丸くふくらませた、こちらのアトリ・・・くちばしに枝をくわえた姿が、満腹で食後に爪楊枝(つまようじ)を使う人間の様と重なり、思わず笑いを誘(さそ)います。

 アトリたちが立ち去った後に、イロハモミジの根元に行くと、多くの食べかすが散らかっています。いくつか拾い集めてみると、器用に種を食べ、プロペラだけを残していました。

 この日、午後には寒気が緩(ゆる)み、ケアキの枝に積もったパウダースノーはほとんど溶け落ち、時折、注ぐ日差しに温められた枝からは、白い湯気が、ゆ〜らりゆらりと立ち上り始めました。

文責 増田 克也



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