峠の道で

 山奥の集落へ続く峠道(とうげみち)にさしかかって間もなく、「ヒッ、ヒッ」と高い声が小刻みに聞こえてきます。声がする方向の、雪が残る斜面(しゃめん)へ目をやると、サッとどこからともなく現れたスズメくらいの鳥が、見上げるほどの高い枝にとまりました。赤茶色のお腹に黒い顔、頭がロマンスグレーの白髪(はくはつ)にも見えるこの鳥は、オスのジョウビタキです。

 ジョウビタキは、サハリンなど北の国から越冬(えっとう)のために日本へやって来る、冬の渡り鳥です。例年、10月の終わり頃(ころ)から姿を見かけるようになり、開けた河川敷(かせんしき)や農耕地、低山から市街地まで、様々な場所で目を楽しませてくれる、お馴染(なじ)みの野鳥です。ところが、この冬はほとんど姿を見かけることがありません。

 その後、ピョコっとお辞儀(じぎ)をする、独特のポーズを何度か繰(く)り返すと、アッと言う間に林の奥へ飛び去りました。

 しばらくして、「ヒッ、ヒッ」またあの甲高(かんだか)い声が聞こえてきます。ジョウビタキに似た声ですが、次に「ガッ ガッ 」 または「グェ グェ 」と、聞き方によっては、カエルとも思える低い声が続きます。
 この声は、ルリビタキのものです。ルリビタキも、本校周辺では、冬に見られる渡り鳥ですが、今季はジョウビタキ同様、全くと言っていいほど姿を見かけません。

 声を頼(たよ)りに、混み合った枝の間を縫(ぬ)うようにして見つけ出すと、オリーブ色の身体をしたメスと思われる個体が、こちらに丸いお腹を向けていました。更に林の奥へ赤い実を求めて移動したものの、何も口にすることなく姿を消しました。

 今季は、ジョウビタキやルリビタキだけでなく、他の野鳥も大変少ない冬です。その原因としてよく言われるのは、木の実などの食糧(しょくりょう)不足ですが、本校周辺で見る限り、野鳥が好む実は豊富とまではいかなくとも、ほぼ例年と変わりなく、年越(としこし)しのカキの実なども未だにたくさん残っています。

 枝をしならせるカキの実を見つめ「これはいったいどうしたことだ・・・?」首を傾(かし)げていると、反対側の斜面から視線を感じました。
 キツネです。立派なキツネがちょこんと座り、こちらに視線を投げかけているではありませんか。カメラを向けると、ヒラッと身体をひるがえし、しなやかに駆(か)けて行きました。おそらく山を下り道路を横断しようとしたところを、私が妨(さまた)げたようです。何かしら気の毒なことをしたような気持ちになり、この日はこれで撤収(てっしゅう)することにしました。

文責 増田 克也



“自然のページ”のご意見ご感想をメールでお寄せください
Email mtajimashizen@pref.hyogo.lg.jp