オシャレはさり気なく

 自然観察の達人、Y氏とお話しする機会がありました。その最中に「こんな物、知ってるか?」と、おもむろに差し出されたのは、ビニール袋(ぶくろ)に入った数枚の羽。

 「どれどれ・・・?」袋を透(す)かしてみると、暗褐色(あんかっしょく)をしたその羽は、あの人気お笑い芸人が額に付けている髪(かみ)の毛みたいに、先端がくるっとカールしているではありませんか。
 これはひょっとして、よく見かけるが、じっくり目にしたことはない“あれ”ではなかろうか? 一目見るなり大方の察しが付きました。

 “あれ”ではわからないので、早速、羽の主に登場してもらいましょう。それは、“これ”です。矢印の部分を見てください。お尻(しり)でカールした一対の羽が、二つ仲良く並んでいます。ちなみにカールした羽を持つのはオスで、写真の下に写っているメスにはありません。

 “あれ”だの“これ”だの言っていると、みなさんに「いい加減にしろ!」と、怒(おこ)られてしまいそうなので、今度は本当に登場してもらいましょう。実はこの羽、マガモのオスだけが持つ尾羽なのです。

 マガモ

             先頭を泳ぐシックなメスと、頭の青い3羽のオス

はこの時季、川などに出かけるといつでも見られる、大変身近なカモです。オスの頭部は鮮(あざ)やかな青色、メスは全体にシックな色合いです。

 カモの仲間は寒くなると、北の国から日本へやって来ます。オスは日本に到着(とうちゃく)したばかりの晩秋には、メスによく似た地味な色をしていますが、徐々にメスへプロポーズのため、美しい繁殖羽(はんしょくばね)に着替え、冬の間に結婚相手を見つけて、春には再び北の国に帰っていきます。つまりマガモのカールした尾羽はオスの“さりげないオシャレ”という訳です。

 この写真を見てください。ここには二羽のメスが写っています。と言いたいところですが、本当のところ、手前のものは羽を着替える前のオスです。その証拠(しょうこ)に、くちばしの色が全体に黄色く、目の左には青いほころびが、チラッと見えています。
 ところがどうしたことでしょう、あのカールした尾羽は、まだありません。繁殖羽に着替える課程で出てくるのは確実ですが、それは、いつ、どの段階なのか、観察するのは来季の課題にしたいと思います。

 みなさんも、川や池に行かれる機会があれば、頭の青いカモを探してみてください。この冬、くるっとカールしたさり気ないオシャレ羽、マガモのお尻に注目です。

文責 増田 克也



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