風にチョンマゲなびかせて

 朝日に照らされた二番穂(にばんほ)が風に揺(ゆ)れる田んぼに、ハトくらいの鳥が目に留まりました。黒い胸に白い腹、顔には隈取(くまど)りに似た模様があり、頭から冠羽(かんう)と呼ばれるチョンマゲの様な羽が突(つ)き出しています。

 大変特徴(とくちょう)がある姿に、遠くからでもすぐに察しがつきました。この鳥はチベットや中国などから越冬(えっとう)のために日本へやってくる、タゲリという渡り鳥です。本校の周辺に姿を見せるのは、実に5年ぶりのことです。

 それでは、タゲリの様子を少しのぞいてみましょう。今回訪れたタゲリは4羽で、田んぼの中で食べ物探しの最中です。
 ピタッと立ち止まっていたタゲリが、小走りに2、3歩駆(か)け出し、お辞儀(じぎ)をするように、土の中へくちばしを突っ込みました。こんなに深くお辞儀をするのは、きっとくちばしが短いためでしょう。顔を上げると、頭の冠羽より随分(ずいぶん)短いくちばしは泥(どろ)だらけです

 この動作を何度も何度も繰(く)り返し、食べ物探しに励(はげ)んでいたタゲリですが、1羽、また1羽と、田んぼの中ほどに切られた溝(みぞ)へ身を潜(ひそ)め始めました。いったい何事でしょう。周りを見回すと、農道を散歩する人が接近していました。
 タゲリたちは溝に隠(かく)れて人が過ぎ去るのをじっと待ちます。見張りのためでしょうか、先頭の1羽が頭を上げ、他のものは丸くなっていました。

 人の気配がなくなると、暫(しばら)く時間をおいて、羽を伸(の)ばしたり羽繕(はづくろ)いをしたりと、やっとリラックスしたようです。その後、何事もなかったように、再び、ちょこまかと食べ物探しを始めました。

 そうこうしている間に、1羽のタゲリが畦(あぜ)に上がってくると、そのまま畦伝いにズンズン歩き、ついにはアスファルト舗装(ほそう)の農道までたどり着きました。ここまで来て、ようやく周りの変化に気づいたのか「あれ?」というような表情を見せたのも束の間、スタスタと農道を横断して、すぐさま大きなミミズを捕(と)らえました

 タゲリの様子を伺(うかが)っていて気になるのは、やっぱり頭の冠羽です。これは、飾(かざ)り羽と解釈(かいしゃく)するのが一般的で、差し障りがないところでしょうが、実際には何かの役目を担っているのでしょうか。観察する人間側からすれば、しなやかな冠羽は風向計にはなるのですが・・・

 ふと、そんなどうでもよいことを考えさせるタゲリのチョンマゲは、今日も右へ左へと師走の風になびくのでした

文責 増田 克也



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