懐かしのヤッちゃんアゲハ
 朝霧(あさぎり)に包まれたある日、母校の側を通りかかると、葉の上で静かに羽を休めるウスバツバメが目にとまりました。「あぁ、懐(なつ)かしい・・・」小学生の頃(ころ)、校庭を飛ぶウスバツバメと戯(たわむ)れて遊んだことを思い出しました。

 ウスバツバメは、秋の一時期だけ姿を現す、天女の羽衣ような羽を持った清楚(せいそ)な蝶(ちょう)・・・と言いたいところですが、実は蛾(が)の仲間です。当時、そんなことは知るはずもなく、登校して授業が始まるまで間、朝霧の中を、ふわふわを飛ぶ数頭のウスバツバメを、クラスメイトと追いかけたものでした。

 そんな同級生の中に、物知りのヤッちゃんがいて、「あれはウスバツバメという名前なんやで」と何度も教えてくれました。ところが、みんなは名前を覚えることはなく「羽の形がアゲハチョウに似ていて、ヤッちゃんがなんだか難しい名前を言ってたから“ヤッちゃんアゲハ”だ!」と勝手に名付けて呼んでいました。

 そのヤッちゃんアゲハは、どういう訳か、毎年秋になると小学校にやって来るのです。当時、子ども心に「なぜ?どうして?」と疑問に思っていましたが、成長すると共に疑問に感じたことすら忘れていました。
 今回、再会した機会に調べてみると、ウスバツバメの幼虫は、サクラやウメといったバラ科の植物の葉を食べて成長することがわかりました。つまりウスバツバメは、どこからか小学校にやって来ていたのではなく、すでに幼虫の頃から校庭のサクラの木にいて、羽化したものが飛び回っていたのです。

 葉にとまるウスバツバメを斜(なな)めから撮り、校庭を見ると当時と同じように、ウスバツバメが低く飛んでいました。その後、高く舞(ま)い上がり、統廃合(とうはいごう)で、子どもの姿がなくなった校舎を越(こ)えていきました。

文責 増田 克也



“自然のページ”のご意見ご感想をメールでお寄せください
Email mtajimashizen@pref.hyogo.lg.jp