季節と共に


 毎年、10月に入る頃(ころ)になると、ある野鳥のことが気にかかります。それは、スズメより少し小さい程度の、地味で決して目立たない、ノビタキという小鳥です。
 本州中部より北の地方で繁殖(はんしょく)を終えたノビタキは、南東アジアなどの越冬地(えっとうち)を目指して南下します。それらが、本校付近に姿を見せるのが、9月の終わりから10月の初旬(しょじゅん)になるのです。

 10月1日のことでした、「今年もやって来るだろうか」期待して巡回(じゅんかい)していると、まだ刈(か)り取りが済んでいない田んぼの稲穂(いなほ)にとまるノビタキを見つけました。
 何度見てもパッとしない容姿ですが、シーズン最初の出会いはまた格別のもがあり胸が高鳴ります。

 この田んぼには、3羽のノビタキが出たり入ったりしながら、一心に食べ物を探しています。
 稲穂にとまっていた1羽のノビタキが、ぐーんと背を伸(の)ばして、遠くをのぞくように見つめたかと思うと、サッと飛び出して行った先は、離(はな)れた田んぼの畦(あぜ)でした。
 何かを捕(と)らえているようですが、ここからは距離(きょり)がありよく分かりません。後で写真を拡大すると、くちばしにはバッタをくわえていました。

 ノビタキは、黒大豆の畑にもよくやって来ます。黒大豆に付く害虫を駆除(くじょ)するために設置されたフェロモントラップは、見晴らしが利くお気に入りの場所で、度々、訪れては周りの様子を伺(うかが)っています。
 他には、獣害防止(じゅうがいぼうし)ネットや道路沿いのフェンス、田んぼに立てられた看板セイタカアワダチソウのてっぺん、まっすぐに伸びたイノコズチなど、目立つところによくとまり、食べ物探しに精を出します。

 「あんた、何しとんなるん?」ノビタキを観察する私に声をかけてきた方や、周辺で農作業をする数人の皆(みな)さんと会話をする機会がありましたが、誰(だれ)一人としてノビタキの存在には気付いていない様子でした。

 そんな地味で目立たないノビタキですが、彼(かれ)らの訪れは、本格的な秋の到来(とうらい)を告げる風物詩です。
 この日は、何かしらノビタキを独り占(じ)めしたような、小さな満足感に浸(ひた)った一日でした。

文責 増田 克也



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