はびこる外来生物


 雨上がりの朝のこと、道路の中央に横たわるものがありました。その動物は、タヌキのようでしたが、どことなく雰囲気(ふんいき)が違(ちが)います。引き返して確認すると、それは北アメリカ原産の外来生物アライグマです。体毛が濡(ぬ)れているところをみると、昨夜、交通事故に遭(あ)ったのでしょう。

 アライグマは、以前、テレビアニメで取り上げられたことをきっかけに人気が沸騰(ふっとう)し、ペットとして飼う人が増えたため大量輸入されました。しかし、成長するに従って凶暴(きょうぼう)になるため、手に負えなくなったものを野外に放したり、自ら逃亡(とうぼう)したものが日本各地で野生化しています。

 兵庫県では、平成15年ころから、県南東部を中心に分布が広がり、それに伴(ともな)って農作物などへの被害(ひがい)も急増し、県内の農業被害額は平成21年には、実に7千万円を超(こ)えています。アライグマは、今やニホンジカ、イノシシに次ぐ重大な被害をもたらす害獣(がいじゅう)となりました。
 注目すべきは、ニホンジカやイノシシの被害額が横ばいなのに対して、アライグマは年を追うごとに増えている点で、この先も分布、被害共に深刻化するのではないかと思われます。

 本校近くの与布土(ようど)地区でも、平成17年には集落内で数頭のアライグマが確認され、収穫後(しゅうかくご)、屋内に取り置きされていたイチゴが食べられるなどの被害が出ています。
 本校では昨年に1度だけ目撃例(もくげきれい)がありますが、その後は確認さていません。この先、数が増えるようであれば、本校在来のアナグマやタヌキなどの住処(すみか)が脅(おびや)かされる心配があります。

 では改めて、アライグマの身体をみてみましょう。やはり見かけはタヌキによく似ていますが、アイマスクを付けたような黒い顔に、茶色と黒色のしま模様があるシッポなどがタヌキとの相違点(そういてん)です。その他に、前足には、ものを掴(つか)むことができる5本の長い指を持っており、スイカやトウモロコシも上手に食べることができます。
 アライグマという名前は、水中でものを洗うような仕草が由来となっていますが、これは自在に前足が使えるからこそ付いた名前です。

 アライグマの野生化問題は、ただ“カワイイ”というだけで、性質や飼育法をよく知らないままペットにして、手に負えなくなると、捨ててしまった人間の身勝手が引き起こしたもので、遠い原産国から連れてこられたアライグマには何の罪もありません。
 しかしながら、今日の農業被害や人畜共通感染症(じんちくきょうつうかんせんしょう)を媒介(ばいかい)する危険性などを考えると、決して感情論だけでは済まされない状況にあります。これからも、本校周辺についてもアライグマの動向を注視していく必要があります。

文責 増田 克也



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