真昼の産卵


 山の高いところにある、池とも沼(ぬま)とも言えないこの湿地(しっち)では、モリアオガエルの産卵がピークを迎(むか)えています。南但馬自然学校での産卵は、6月中旬が最盛期でしたので、ここは半月遅(おく)れで季節が進んでいるようです。

 普通、モリアオガエルの産卵は夜に行われますが、産卵ラッシュのこの時季は、夜だの昼だの言ってられないのでしょう。一匹のカエルが鳴き始めると、それを合図にあちらこちらから声が聞こえ、ついには昼間の大合唱に発展します。
 腰(こし)を低くして、辺りの枝を上目遣(うわめづか)いでのぞき込むと、ここでもそこでもあそこでも、オスが大きなお腹のメスに抱接(ほうせつ)しています。メスはオスを背負ったこのままの状態で、気に入った枝先などへ移動すると、いよいよ産卵が始まります。
 
 いつも、モリアオガエルの産卵を観察するには、暗闇(くらやみ)の中、頭につけた懐中電灯(かいちゅうでんとう)を灯して鳴き声を頼(たよ)りに探しますが、白昼、こんなに簡単に産卵が見られるなんて、なんだかいけないことでもしているような気分にさせられました。

 モリアオガエルの湿地を後にして先に進むと、道路の端に石ころが転がっています。だんだん近づくにつれ、石ころに手足が現れ・・・ついには「えっ、カエル!?」
 車を降りてそっとしゃがみ込むと、それは握(にぎ)り拳(こぶし)ほどのヒキガエルでした。生後3年ほどでしょうか、まだ幼いものでしたが、カメラを彼(かれ)の目線まで下ろして撮影すれば、結構な迫力です。
 「こんな所にいたら車につぶされてしまう」近づいても全く動じないヒキガエルの尻(しり)を、ちょいちょいと突(つつ)いて草むらに追いやりました。

 「またか!」このところ、山へ向かうと悩(なや)まされるのが、突然襲(おそ)ってくるガスです。ガスは一気に周りの全てを白く呑(の)み込み車の運転もままなりません。
 仕方なく辺りを見回すと、スギの大木の根本に白と黄色の花を付けた低木がぼんやりガスに漬(つ)かっています。「これはひょっとして」スタスタ近寄ると、やはりそうです。一度見たら忘れられないほど、ユニークな花を咲かせるウリノキです。
 花はつり下がった白い棒状の花弁が、クルクルと巻き上がることで開花します。中には巻き上げが左右アンバランスなものを見かけますが、これは開花の最中なのでしょう。花弁から突き出した、黄色い数本のおしべと、白い一本のめしべが、掛(か)け軸(じく)の房飾(ふさかざ)りのようで、これもまた楽しいものです。

 ガスが晴れるまでの間、タコウインナーとも貴族の巻き髪(がみ)とも見える愉快(ゆかい)な花に、しばらくお相手を願ったのでした。

文責 増田 克也


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