ヨシ原の怪鳥


 サンカノゴイという珍(めずら)しい野鳥の情報を聞きつけ、ヨシ原へ探しに行きました。何日か通ってみたものの全く成果はなく、「今日もダメだったなぁ・・・」と帰り支度を始めながら、何気なくもう一度ヨシ原に目をやると、どこから出てきたのかヨシ原の縁(へり)でサンカノゴイが佇(たたず)んでいました。

 サンカノゴイの色といい模様といい、忍者(にんじゃ)のようにヨシ原とすっかり同化して、うっかり目を離(はな)すと見失ってしまいそうです。先ほどから時折、くちばしを開け閉めする他には、上を向いた同じポーズでほとんど動きません。
 実は、このポーズ、サンカノゴイの「ヨシ化けの術」なのです。喉(のど)もとから胸に延びる縦縞(たてじま)がヨシ原によく馴染(なじ)み、更(さら)に、
上を向いた状態を保ちながらも、しっかりと前方を注視することができる、絶妙(ぜつみょう)な目の位置には思わず舌を巻いてしまいます。

 サンカノゴイがヨシに化けてから、数分が経ったころ、ようやく警戒(けいかい)を解いて、水面に目をやり始めました。おそらく獲物(えもの)を見つけたのでしょう。首を潜(ひそ)め、背中の羽を扇形(おうぎがた)に逆立て、狙(ねら)い澄(す)ました表情は、鳥類へ進化半ばのは虫類のようで迫力満点です。

 「さあ、いつ獲物を捕(と)らえるだろう」今か今かと固唾(かたず)をのんで見守りましたが、結局、縮めた首を繰(く)り出すことはなく、くちばしで足元の水面を、ゴソゴソかき混ぜた後、くるっときびすを返し、ゆっくりヨシ原の奥へ姿を消していきました

 環境省レッドリストで、絶滅危惧(ぜつめつきぐ)TB類(EN)とされる希少種、サンカノゴイ。名前だけは知っていたものの、目の当たりにしたのは今回が初めてです。
 サンカノゴイは、北海道や滋賀県(しがけん)の琵琶湖(びわこ)、そして関東の一部では繁殖(はんしょく)をしていますが、この度の個体は、冬を過ごすために但馬のヨシ原を訪れたのでしょう。叶(かな)うことならば、このまま但馬に居着き、そして繁殖・・・こんな
望みは夢のまた夢でしょうか。


文責 増田 克也


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