マシコは猿の子


 3月に入り、春めいた陽気が続いたある日、やっとのことで、赤い色をしたオスのベニマシコに出会うことができました。

 ベニマシコは、寒い時季に、本州、四国、九州などで越冬(えっとう)し、暖かくなると、モンゴル北部や中国北部、サハリン、日本では北海道や本州北部の繁殖地(はんしょくち)に向けて旅立っていきます。
ですから、「今季はもう会えないだろう」と、半ばあきらめていました。
 
 普段(ふだん)は、茂(しげ)みなどに潜(ひそ)み、目立つ場所には出てこないベニマシコも、雪で地面が閉ざされた時は、食べ物を求めて草木の上の方へ移動するので、いつもよりずっと見つけやすくなります。しかし、この冬はそんな雪の日でも、目にするのはシックな色のメス

            雪の日に、ヨモギの実をついばむメスのベニマシコ

ばかりで、赤いオスには全く縁(えん)がありませんでした。

 ところが、先日のこと、通りかかった本校近くの集落で「フィフィ、フィフィ、フィホ」と小さな声が聞こえてくるではありませんか。その声に目をやると、茂みの中で赤いベニマシコが、丸く体をふくらませていました。しかし、近くを車が通る度に、奥(おく)へ奥へと隠(かく)れてしまいました。
 その後、車の行き来が途絶(とだ)えると、少しずつ立木を上に登り始め、ついには全身がハッキリ見通せる枝先にたどり着き、「フィ、フィホ」と一声鳴き飛び立っていきました。

 ところで、この“ベニマシコ”という、よほど鳥らしくない名前にはどんな由来があるのでしょう。“ベニ”はオスの赤色を示しているのは、すぐに察しが付きます。それでは、“マシコ”とは・・・? 調べると、マシコは漢字で“猿子”と書くらしいのです。「エッ、何で鳥が猿(さる)の子なんだ?」ますます解らなくなってしまいました。更(さら)に調べると、猿の顔やお尻(しり)が赤いところから、これもまた赤色を表現し、しかも、昔は赤い小鳥をひっくるめて“マシコ”と呼んでいたようです。

 ベニマシコの他にも、名前に“マシコ”と付いて、南但馬自然学校の周辺で見られる可能性がある野鳥は、ベニマシコより一回り大きいオオマシコや、脇腹(わきばら)のローズピンクが魅力的(みりょくてき)なハギマシコがあり、そう言えばいずれも、オスの体には赤系色が入っています。
 このマシコたちは、バードウォッチャーには大変人気がありますが、年によって渡ってくる数が少なかったり、山に行かないと出会えなかったりと、そう簡単には見ることはできません。その点、このベニマシコは、河川敷(かせんしき)や休耕田など、手軽な場所で毎年見られる、言わば“マシコのスタンダード”です。

 季節は春に向かってまっしぐら、さあさあ、彼(かれ)らが旅立つ前に“一番身近な猿の子”ベニマシコに会いに行ってみませんか。

文責 増田 克也


“自然のページ”のご意見ご感想をメールでお寄せください
Email mtajimashizen@pref.hyogo.lg.jp