かゆい所にクチバシが・・・


 ある日のこと、水たまりに佇(たたず)む、縦縞(たてじま)入りのラグビーボールのようなタシギが目に留(と)まりました。ゆっくり近寄ると、出し抜(ぬ)けに頭を横に向け、ラグビーボールから黒く丸い目と長いくちばしがニョキ! 今回はすぐに見つけることができましたが、田んぼの中にいるタシギを探し出すのは、なかなか大変です。

 この写真には、二羽のタシギが写っていますが、どこにいるのかわかるでしょうか。○で囲ったところを注目すると、うまく稲(いね)の切り株に隠(かく)れています。「まだ、どこにいるか見つけられない」という方は、こちらをどうぞ。どうですか、タシギはカムフラージュの達人ですね。

 私の存在に警戒(けいかい)したタシギたちは、微動(びどう)だにしません。仕方がないので、しばらくタシギのかくれんぼに付き合うことにしました。望遠鏡でのぞくと、つい先ほどまで食べ物を探していたのでしょう、長いくちばしの根元には枯葉(かれは)を串刺(くしざ)しにしています。

 数分が経過したころ、羽を広げて伸(の)びをひとつ・・・それを合図にようやく動き始めました。すると早速、長いくちばしを田んぼの土に「ズイッズイッ!」リズミカルに抜き刺(さ)ししては虫を探します。あちらこちらを何度か探(さぐ)ると、くちばしの先にミミズに似た小さな虫を捕(つか)まえました

 腹ごしらえが一段落すると、次に羽づくろいです。するとどうでしょう、田んぼの水たまりに、くちばしをチョイと浸(ひた)してから羽をすき、そして、またチョイとやってから整える、といった動作を繰(く)り返しています。まるで水を整髪剤(せいはつざい)のように使っているではありませんか。これまで他では観察したことがない興味深い行動でした。

 次に、胸の辺りをつくろい始めました。胸をぐーんと反らせて首を伸ばし、くちばしをできる限り上に引き上げていますが、長いくちばし故に、苦労している様子です。やっとのことで、くちばしの先がかゆいところに届いたのでしょうか、目を閉じてうっとりとした表情を見せました。
 しかし、首や喉(のど)の辺りがかゆくなったらどうするのでしょう。どんなに頑張(がんば)っても、この長いくちばしでは到底(とうてい)届くはずがありません。
 でも、そんな心配は無用です。くちばしが届かなければ、脚(あし)を使えばいいのです。こんな当たり前のことを、ふと、案じてしまうほど、直向(ひたむ)きなタシギの羽づくろいでした。

文責 増田 克也


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