自然界にムダはなし


 3羽のハシビロガモというユニークなカモに出会いました。オスは、深緑色のヘルメットをすっぽり被(かぶ)ったような光沢がある頭で、その中央からやや上には、ぽつんと黄色の目。胸は純白で脇(わき)は茶色、そして背中は黒。大変美しい配色ですが、一番目を引くのは、体に不釣(つ)り合いなほど、大きく黒いくちばしです。
 一方、メスは、褐色(かっしょく)をベースとした落ち着いた配色の鱗模様(うろこもよう)。目は茶色で優(やさ)しげですが、やはり立派な茶色いくちばしを持っています。
 おや、こちらはオスともメスとも言い難い、変わった色と模様です。胴体(どうたい)の色や模様はメスによく似ていますが、頭は黒っぽく、目は黄色。そしてくちばしも黒色、これらはオスの特徴(とくちょう)です。実を言うとこの個体は、美しい繁殖羽根(はんしょくばね)に着替(きが)えている途中(とちゅう)のオスで“エクリプス”と呼ばれるものです。

 3羽は水中にくちばしを突(つ)っ込み、左右に忙(いそが)しく振(ふ)りながら、水面をあちらこちらへ移動し餌(えさ)を採っています。こちらへどんどん向かってくる様子は、小さな浮島(うきしま)が迫(せま)ってくるようでなかなか迫力(はくりょく)があります。しかし、せっかく近くまで寄ってきても、この時ばかりは、立派なくちばしは水の中で見ることはできません。
 残念に思っていたその時です。一心不乱に餌を採っていたオスが、不意に頭を上げ、大きなくちばしを露(あら)わにし首を傾(かし)げて空を見上げました。その訳は上空に、魚を食べるタカの仲間、ミサゴが飛んでいたからです。「よくもまあ、頭を水に突っ込んでいるのに空の様子がわかるものだ」と感心し、撮影した写真を確認すると、水面から目だけはしっかりと出して辺りに注意を払(はら)っていました。

 ハシビロガモを見ていると、やっぱり気になるのが、まるで靴(くつ)べらかシャモジのようなくちばしです。どうしてこんな形なのでしょう。それは、餌に関係しています。
 ハシビロガモは水面や水中の浅い場所にある、プランクトン、草の種、藻(も)などを水と一緒(いっしょ)に吸い込んで、不要な水をくちばしの脇から外へ吐(は)き出します。ですから、くちばしが平たく幅(はば)広な分、餌を効率よく集めることができるという訳です。
 もう一つ必見なのがくちばしの内側にあるくし状の歯です。この歯を使うと上手く餌を濾(こ)し採ることができますね。一見して無骨に見える

               大きなくちばしで器用に羽繕いをする

ハシビロガモのくちばしも、餌を採るために色々な工夫が施(ほどこ)された不可欠なツールなのです。「自然界にムダはなし」この度、改めて感じさせられました。

文責 増田 克也


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